黄昏ラビリンス 


 クリスマス休暇まであと三日と目前に控え、ガルマは悩んでいた。

 気を紛らわせるように目の前の課題に向かってみるものの全く頭に入ってこない。

 ため息を零す。

「どうしようか……」

 シャアが聞いたらまた「坊や」とバカにされるのだろう。

 だけど……そっと机の引き出しにしまったものを取り出す。

 それは昼間、兄であり、この学校の校長でもあるドズルに渡されたもの。

 シャトルのチケットである。

「今年のクリスマスは帰れそうにないからな」

 突然、呼び出され何事かと怪訝な顔をするガルマにドズルは上機嫌でそう言って、

旅行のパンフレットを渡した。

「チケットも用意してある」

「兄さん!」

「友達とでも行って来い」

 これが自分からのクリスマスプレゼントだと言う兄にガルマは何も言えなかった。

 別に旅行をするのが嫌だというわけではない。

 問題なのは……。

 ドズルに渡されたチケットが二枚だと言う事だ。

 一枚は自分のものだとして、もう一枚は……。

 誰を誘うかと考えた時、シャアしか思い浮かばなかった。

 帰郷しないと言っていた。

 冬休みは寮で過ごすと。

 では、クリスマスは? 

 シャアはモテる。

 士官学校では女性は極端に少ない。しかし、いないわけではない。

 数少ない女生徒の間で彼はとても人気があった。

 それはそうだろうとガルマは思う。

 勉強もスポーツも彼は完璧だ。

 辛うじて勉強だけは負けていないつもりだが、それ以外でシャアに勝てたためしがない。

 いつだってシャアは自分の前を行き、更に助けの手を伸ばしてくるのだ。

 それが悔しくもあり……嬉しくもある。

 立ち振る舞いもスマートで、彼が通った後は女生徒から小さなため息が零れた。

 ガルマはチケットを手にうめき声を上げた。

 誘いたい。だけど、誘ってからかわれるのは嫌だ。

 何と言えば良いだろう。

 もうクリスマスまであと三日しかない。

 誘うなら早くしなければ……。

「どうしよう……」

 そう呟いた瞬間、

「ガルマ、どうしたんだ」

 頭上から降り注いだ声にガルマはハッと目を見開く。

 視線を上げれば、問題のシャアが自分を見下ろしていた。

 先ほどまでシャワーを浴びていたシャアは下半身にタオルを巻きつけただけの格好で、

均整のとれた上半身を露にしている。

 思わずガルマは頬を染め、顔を背けた。

「は、早く何か着ろよ!」

 神経質なように見えてあまり自分のことに頓着しないシャアは良くこの格好でシャワー室

から出てくる。

「ああ、悪い」

 悪びれもせずそう言うとシャアはクスリと笑みを浮かべた。

「何か悩んでいたようだから気になってね」

 シャアはガルマの手の中のものに気づき「ん?」と首を傾ける。

「これは何だい?」

 刹那、シャアの長くしなやかな指がガルマの手からチケットを掠め取った。

「あっ」

 思わずガルマは立ち上がり声を上げる。

「か、返せっ!」

「シャトルのチケットか。別荘かどこかに行くのかい?二枚あるようだがドズル閣下と?」

「そ、それは……」

 シャアの言葉にガルマは口ごもる。

 このタイミングで「君と……」とはとても言えない。

 きちんと誘うつもりだったのにと、ガルマは唇を噛み締めた。

「ガルマ?」

 シャアが全てを見透かしたような笑顔で問いかける。

「誰と行くつもりだったんだい?」

 その言葉にガルマは顔を赤く染めた。

「べ、別に良いだろ。とにかく返せよ!」

 ガルマははぐらかすようにそう言って手を伸ばした。シャアの手のからチケットを取り戻

した瞬間、腕を掴まれ後ろに捩じ上げられ。

「うっ」

 強い力に思わず声が漏れた。

 刹那、ハラリとチケットが手から零れ落ちる。

「ガルマ」

 シャアが呼ぶ。

 優しいが強い意志を持ったその声にガルマはビクッ

と体を跳ね上がらせる。

 ゆっくりと視線をシャアに向ける。サングラス越しに見

える瞳の鋭さにガルマの胸がドキッと音を立てた。

「言うんだ」

 低い声が静かに問いかける。

「あ……」

 それ以上、ガルマは真っ直ぐにシャアと見ていられ

ず瞳を伏せた。

 刹那、掴んだ手に力が込められ痛みが走る。

 痛みに涙目になりながらガルマは呟いた。

「兄さんが……」

「閣下が?」

「今年は忙しいから……クリスマスは旅行に行ってこいっ

て……」

「へえ。それで誰と?」

「それは……友達と……」

 友達ねえ、と呟いてシャアがガルマの手を解放する。

 ガルマは握られた箇所を押さえ、非難の眼差しをシャアに向けた。

「それで誰を誘うんだい?」

 答えが分かっていて、ニヤニヤと笑みを浮かべているシャアが憎らしい。

 だけど、他の誰かを誘うなんて考えられないから……。

 ガルマは床に落ちたチケットを拾いチラリをシャアを見る。

 余裕たっぷりのシャアにガルマはキュッと唇を噛み締めた。 

 赤く火照る顔を背け、チケットを一枚差し出す。

「予定がないなら」

「予定か?」

 うーん、と悩むようなシャアの声。ガルマの体がピクッと跳ね上がった。

「べ、別に予定があるなら僕は別に……」

 視線をシャアに戻し、おずおずと呟く。

 そんなガルマにシャアは声を上げて笑った。

「君に反応は見ていて飽きないな」

「う、煩い!」

「そんな子犬のような眼差しで縋られたら断れないじゃないか」

 シャアの言葉にガルマの顔に赤が散る。

「縋ってなんか……」

 もう良い、とチケットを引っ込めようとした瞬間、シャアの手が再びガルマの腕を

捕らえた。

 強い力で引き寄せられる。

「行くさ。ご好意に甘えさせて貰うよ」

 間近に迫るシャアの顔にガルマは一瞬見惚れ言葉が出なかった。

「これで良いかい?坊や」

「シャア!」

 からかうように耳元に囁かれた言葉に声を上げる。

 シャアは笑いながらガルマを解放すると背を向けた。それからベットに置いてあった

服に袖を通し始める。 

 ガルマは温もりの残る腕を胸に押し当て、シャアの後姿を見つめていた。

 心臓が激しくまだ音を立てている。

 目的は達したけれど……。

 手の中に残るもう一枚のチケットに視線を向ける。

 シャトルの行き先はここから程近い観光で有名なコロニーだ。

 期間は三日。

(大丈夫かな……)

 その間はシャアと二人きり。

 寮でも同室で一緒に過ごしてはいるけれど……。

 見つめれただけでこんなに心臓が音を立てている。

 ガルマはフウッと息を吐いた。

 刹那、「ガルマ?」と着替え終えたシャアが顔を向ける。

 ガルマは慌ててシャアに背を向けると椅子に腰を下ろした。

 そして何事もなかったように繕って机に向かう。

 クリスマス休暇まであと三日。

 その事を考えると学業に手がつかなくなってしまいそうな自分に苦笑いを浮かべつつ、

クルリとペンを手の中で回した。

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ガルマ騙されすぎ(笑))どうやら私の中ではシャアが三人いるようです。
シャガルのシャアはドSだわ。だってオリジンがそうなんだもん。そして
ガルマは乙女で可愛いな〜。
クワトロは確実にMです。
シャア(総帥)はSに見せかけたドMだと思います。
何があったシャア〜!!
ガルマとカミーユとアムロに翻弄されるシャアを愛してます。
時々、自分が一番好きなのはヤツか!と勘違いしてしまうくらい(笑)