一秒Kiss





「ヤバイ」

 大量の書類の向こう側から聞こえて来た言葉にサスケは顔を上げた。

 ナルト同様、サスケの前にも書類が大量に詰まれている。

 木の葉の里ではこの時期、慰霊祭、収穫祭と祭りが続くせいもあって、書類

の量も半端ではない。

 特に今日はもう一人の補佐官であるサクラが並みの医療忍者では対処でき

ない急病人が出たとかで病院の方へ行ってしまった為、その分の書類もある。

 連日の残業にいい加減うんざりしている。

 今日もまだまだ仕事が終る気配はない。

 時計をチラリと見てサスケはため息を零した。

「で、何がやばいんだって?」

 腰を上げ、書類の向こうで慌てているナルトを覗き込む。

 するとナルトの机の上では先ほどサスケの煎れた茶碗が横倒しになってお

り、中の液体が書類の上に広がっていた。

「バカ!」

 慌ててサスケはポケットから手ぬぐいを取り出し机の上を拭う。

 幸い少量だったおかげで机全体に広がってはいなかったが……モロに被った

一枚は全ての文字が滲んで何の書類だったのかも分からない。

「他は?」

「他は大丈夫だってばよ」

 ナルトはガクリと肩を落としてそう呟いた。

「で、それは一体何の書類なんだ?」

 ナルトの様子からして重要なものに違いない。

「えっ」

 顔を強張らせナルトの動きが止まる。

 嫌な予感が過ぎった。

「ナルト」

 低い声で尋ねれば頬を引き攣らせながらナルトが背中を丸める。

「だいたい何でお茶を……」

 そう言い掛けてサスケは顔を歪めた。

「てめえ、寝てたな」

「ね、寝てねえってばよ!」

「嘘付け。寝てなかったら何でお茶を零すんだよ!」

 ナルトがウッと言葉を飲み込む。

「ちょ…ちょっとだけ……気づいたらウトウトしてて……さ」

 ゴメンとナルトは両手を合わせ頭を下げた。

 サスケはもう一度時計に視線を向ける。

 時刻は間もなく0時になろうとしている。

 連日、深夜にまで及ぶ仕事―――しかもナルトの大嫌いな書類作業だ。

 疲れていないはずがない。

 それでも期日までに終わらそうと真面目にやってるのだ。

(居眠りくらいで文句を言っては可哀想か……)

 サスケはため息を零した。

 しかし、問題は書類の方である。

 大切な書類でなければいいが……。

 濡れた書類を確認する。

 滲んだ文字は原型を留めておらず、書類の内容は全く分からない。

 うーんと思わず唸り声が漏れた。

「ナルト?」

 視線をナルトに向け「これは一体何の書類だったんだ」と促す。

「それは……明日の慰霊祭でのスピーチの原稿だってばよ」

「ああ、そういやそんなもんもあったな」

 明日、十月十日の夜に毎年慰霊祭が行われる。

 火影であるナルトはみんな前で慰霊の言葉を述べることになっていた。

「一応、何か考えとこうと思って……」

「ほう」

 ナルトにしては愁傷な心がけだと思う。

 しかし、まあそれならば水浸しになって駄目になってしまってもさほど問題ない。

 サスケはホッと胸を撫で下ろした。

「今日はもう帰えるか」

 時間もかなり遅い。

 明日のこともあるし、今日はこのくらいで引き上げるのが得策だろう。

「そうだな」

 ナルトも頷く。

 ガクリと肩を落とすナルトにサスケは苦笑いを零した。

 元々、こんな風に書類を前にして黙々と作業なんて似合わないヤツだ。

 ナルトは外で走り回っているのが一番良い。

 だが火影となった今はそれも難しい。

 嫌でもやらなくてはいけない仕事は山積みなのだ。

 子供頃のようにあれは嫌だ、これも嫌だの我侭は通用しない。

 それはナルトも良く分かっていて――――頑張っている方だとサスケは思う。

 もちろん、そんなことを言えばナルトが付け上がるので言わないが……。

 何度めになるだろう。

 サスケは時計に視線を向けた。

 23時59分。

 あと一分ほどで日付が変わる。

 明日は慰霊祭――――それはすなわち――――。

「ナルト」

 机の上を片付けるナルトに声を掛ける。

 ナルトが顔を上げた瞬間、サスケは素早い仕草でナルトの唇に唇を重ねた。

 まるで風が通り過ぎたような一瞬のキス。

 何が起こったのか分からないような顔でナルトが見つめている。

 サスケは自分の行動に顔を赤らめると空になった湯のみを持ってナルトに背を

向けた。

 そのまま部屋を出てしまいたかったのに……。

 扉を開く瞬間、ナルトがサスケの腕を捕らえる。

 ナルトは青い瞳を大きく見開いてサスケの顔を覗き込んだ。

「サスケ、何今の?」

 瞬きよりも早いキス。

「うるさい」

 顔の赤みがよりいっそう増していく。

 フンと鼻を鳴らすと顔を背け、時計を顎で指した。

「あっ……」

 時刻は0時1分にさしかかろうとしていた。

「サスケ!」

 刹那、ナルトが両手を広げ勢い良く抱きついてきた。

 逞しくなった腕に抱かれ、広い胸に抱きすくめられると身動きができなくなる。

「サンキュー、サスケ。一番にお前に祝って貰えるなんて……俺ってば幸せもん

だってばよ」

「う、うるさいっ」

「なあ、サスケもう一回、次はもっとさ……」

 ナルトが顔を寄せてくる。

 その顔を平手で押しのけて……。

「ウスラトンカチ!」

 湯のみ片手に部屋を出て行く。

「さっさと帰って寝ろ!」

 吐き捨てるようにそう言うと後ろから惜しむ声が聞こえてくる。

 背中に声を聞きながらサスケはクスリと笑みを浮かべた。




−END−


1010企画様に寄稿させて頂きました。
こんなもので恐縮です。
お誘い下さいました稲森さんに大感謝です!
本当にありがとうございました。