Deeprooted(サンプル2)

 

 闇の中に光る小さな粒が浮かぶ。

 星か?

 キラキラと光るそれは宇宙を思い起こさせた。

 フワッと体が浮かび上がるような感覚がして、まるで宇宙に浮かんでいるような錯覚を作り出す。

 おそらくそう思うのは気のせいで実際は球体が少し揺れた程度だろう。

 よくあるゲームのシュミレーションマシンだ。ドイツはそう思いながら周囲に視線を向ける。

「これは中々……」

 フワフワと浮いている感じは人によっては気分が悪くなるかもしれないが、自分にはなかなか悪くない。

 しかも全面がモニターになっているおかげで、体一つで本当に宇宙の真ん中で浮いている気分だ。

 操縦桿をクイッと手前に引くと、球体が加速した気がする。

「なるほど、良く出来ている」

 そういえば開発に日本が携わっていると言っていた。昔から小型化が得意な友人である。あの友人が携わっているのなら

ばこの性能も納得がいく。

 思わず対抗心を出してしまいそうな自分に苦笑しながら、深い宇宙の闇に視線を向けた。

 

 

 

 

 優雅な宇宙の旅。

 結構、こういうのも悪くない。

 手を伸ばせば星が掴めそうだ。

 まるでゆりかごの中にいるように心地良い。

 そう感じていたのは少しの間だった。

 

 

「んっ」

 先ほどまで美しい光を放っていた星の光が黒く重いものへ変化していく。その変化に戸惑う間もなくザラリとした感触が

操縦桿を握るドイツの手に広がった。

 何だ?

 何かが手に絡み付いている。

 不思議な感覚にドイツは眉間に皺を寄せた。誰かの手が重ねられたような感触だ。しかし、この狭い球体の中には自分一

人しかおらず……。ドイツは感触のする場所に視線を向けた。

 それは人の手ではなかった。

 黒い蔦のようなものが巻きついてドイツの手を操縦桿に固定している。

「何だ、これはっ!」

 思わず声をあげ、腕を引こうとした。しかし蔓はゴムのような弾力を持ち、ドイツが渾身の力を振り絞っても僅かに伸び

るだけでビクともしない。それどころか与えた力の分だけ反動で締め付けられた。肉に食い込む感触にドイツの胸にザラつ

いたものが広がる。

「おい、アメリカ」

 ドイツは焦りを滲ましてコンソールルームにいるアメリカに呼びかけた。

 異常事態。しかし、アメリカからは何の応対もない。

「不良品か!」

 これだからアメリカ製は、と舌を打つ。故障が多いのはアメリカ製品の特徴だ。質より量の考え方はもう少し考えるべき

だとドイツは思った。

 だが、今はそんなことはどうでも良い。

 緊急スイッチなどを目で探してみるが、ザッと見渡した限りそのようなものは見当たらない。

 しかも手を拘束されている状態では満足に抗うこともできず――――。

「アメリカ、おい、アメリカっ!」

 回線で繋がっている筈のアメリカを呼ぶしかなかった。しかし、返事はなくその間に黒い蔦のようなものがジワジワとド

イツの腕を這い上がってくる。

「あっ」

 モニターに視線を移した瞬間、ドイツは目を見張った。

 先ほどまで穏やかな宇宙を映し出していたはずのモニターが変わっているのだ。荒野に瓦礫の山が幾重にも重なってい

る。灰色の空の下、あちらこちらから白い煙が上がっている。

 耳障りな飛行機の音が聞こえた。

 この景色にドイツは覚えがあった。

 西と東に分断される前の祖国だ。壊れた建物の窓から垂らされた布にはかつての国家社会主義ドイツ労働党の紋章が刻ま

れている。

 布の端は黒く焼け焦げていた。

「なっ」

 何故、こんなものが見えるのか?

 それも過去の……忘れることはできないが、辛酸な歴史。

 黒い蔦が這い上がりドイツの首に巻きつく。

 まるでどす黒いこの蔦はあの時の民衆の思いのようにドイツに絡みついた。

 息苦しさにドイツは顔を引き攣らせる。

 同時にそれは座席の後部から獲物を捕らえるように無数に伸びてきてドイツの体を捕らえた。ゴムのような弾力と容赦な

い力でドイツの体を包みこみ、獲物を包み込む。

「くっ」

 何だこれは?と思う間もなく、首に伸びた蔓の一本が襟ぐりから忍び込み、白いワイシャツを引きちぎる。抵抗しようと

身じろぎするが、無数の蔓が鋭い先を器用に使い、爪で引っかくように頑丈なスーツを切り裂いていった。

 カチャカチャとベルトのバックルが奏でる音にドイツは顔を青ざめる。

「やめろっ」

 叫ぶと同時にベルトが外され、股間に蔓が入り込んだ。


 

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