追憶のむこうに(サンプル2)

 季節が変わるごとにこれだけ多くの行事があることを知らなかった。

 一ヶ月、二ヶ月と時が経つと同時に二人の生活も町に馴染んでくる。元々器用な方ではあったから仕事はすぐに憶えた。女将としては店の表に立って欲しいようだったが、

サスケはひたすら麺を打ち機械で裁断する仕事に没頭した。

 何も考えずに小麦を捏ねていると気持ちがすっきりする。

 今の所、注意しているが追っ手らしき者は見ていない。

 波の国には忍がいないらしく、何かあった際には木の葉に依頼しているという話だったが、ガトーとかいうやくざものが木の葉の忍に懲らしめられ、いなくなってからは

至って平和だという。

確かに毎日時は忙しく過ぎていくが、みんな明るく元気だ。

 自分達を可愛がってくれるタズナや女将のおかげで町の人達も友好的だった。

 ナルトは毎日、イナリやその友達と遊びに行く。最初は子供たちだけで遊びに行くなんて危険ではないのかと思ったが、ここではその心配はないようだ。

 町の人がみんなこの町では保護者のようなものだった。

 道を歩けば誰かに声を掛けられる。

 差し入れを貰うこともあった。

 ナルトは風邪を引くこともなく、元気良く走り回っている。

 そろそろチャクラの扱い方を教えてやらなくてはならないと思いつつ、普通の子供と同じようにしているナルトを見ていると中々踏み出せずにいた。

 

 町に来て八ヶ月が過ぎた。 

 今日は夏祭りで町中から多くの人が集まると言う。公民館では小さい子供たちを集めて劇をするらしく、イナリは朝からその稽古に出かけていた。

 店の片隅でナルトが面白くなさそうに紙に鉛筆を走らせている。

 いつもならこの時間はイナリと中庭で遊んでいるのだが、一人ではすることも限られている。文字の稽古をさせてみたものの、面白くないのか鉛筆は完全に止まっていた。

しかしサスケの方も出来ることは限られていた。何せ今日から三日は祭りで観光客も多い。店は開店と同時に大忙しだった。

 ホッと一息つく頃にはお昼はとっくに回っており、ナルトはテレビをぼんやりと見つめていた。テレビに今日の祭りの様子が映っている。

「このまつりにさ、おれってばいく?」

 ナルトが画面を指差して言った。祭りをやっているのはいつも毎日、朝の散歩がてらに行く神社だ。有名な神社らしく境内も広い。参道に露天がズラリと並んでいた。夜は

更に活気づ

くと言う。

「店が忙しいからな」 

 夜は昼間より忙しくなるだろう。とても祭りに行けるとは思えない。それにナルトには言えなかったがテレビカメラが回っているような境内をうろつく気にはとてもなれな

かった。ナルトは残念そうな顔をして肩を落としたが諦めたように「じゃあ、良いってばよ」と呟いた。

 ナルトにはかなり我慢をさせていると思う。

 服も満足に与えてやれない。お菓子も好きには買ってやれない。

 それでも此処にいればイナリのお下がりを貰うこともできたし、こうして働いている間も一緒にいられる。夜は一緒に風呂に入って、同じ布団で眠った。

 遅めの休憩を貰いナルトを連れて店の奥で食事をとる。

「なあ、サスケ。おれ、おんなのこになりたい」

 不意に言われた一言にサスケは「は?」と間抜けな声を漏らした。

「だってさ、サスケはおとこまえだからさ、もてるっておばちゃんいってたってばよ」

 いなり寿司をかじりながらそう言ってナルトは頬を膨らます。

「それでお前が女になってどうすんだよ」

「サスケとけっこんするってばよ。そしたらもうおとこでひとつなんて言われなくなるだろ!」

 名案なんだってばよ!と胸を逸らせるナルトに胸がキュッと締め付けられた。ナルトは店に来る人達がサスケに向かって「男でひとつ大変ね」と言っているのを聞いて

いたのだ。

「おれがサスケをしあわせにする!だから、おかあさんなんていらないってばよ」 

 ナルトはそう言うとスプーンを茶碗に残して、サスケの腕をキュッと掴んだ。小さな手が震えている。

 優しく背中を撫でてやると、不安げな青い瞳が向けられる。

「どうしたんだ?」

 何がそんなに不安なのかと問いかければナルトは瞳を伏せて呟く。

「おみあいするって……」

「ああ、そんな話もあったな」

 世話好きのおばさんというのは何処にでもいるものだ。

 ここに来て二ヶ月が過ぎた頃、お見合いの話を持ちかけられた。タズナからは女将との縁談を冗談交じりに薦められている。

 タズナは仕事を終えるといつも酒を飲んでいるのでどこまで本気かは分からないが、ナルトのことは気に入っているようだった。自分の孫と同様に扱ってくれている。

タズナが仕事の帰りに買ってきてくれるイチゴ飴は二人の大好物だった。

 不安げに揺れるナルトにサスケは思わずプッと吹いてしまった。

 自分が見合いなんか出来るはずがない。ここにだって何時までいられるか分からないのだ。多くの人の命を奪った自分。優しい人達に嘘ばかりついて利用している。

「バカ、見合いなんかするわけねぇだろ」

 ナルトの頭を優しく撫でる。金色の少し硬い髪に指を絡ませ、サスケは瞳を細めた。

 そっとナルトを抱きしめる。

 小さな肩を包み込むと、ナルトもサスケの頭を抱え込むように抱きしめた。

 

 

 

 

 秋が近づいてくると山が鮮やかな色に染まる。夏場ほどの観光客はいないが、秋のこの町も綺麗だとサスケは思った。

 ナルトも四歳になり身長も去年の今頃と比べると十センチも伸びた。それでも同じ年頃の子供の中では小柄な方なようだが、これからもっと大きくなっていくだろう。

 仕事の合間にナルトと海沿いの道を散歩する。

 最近、この国には三十三の寺院が点在し、巡礼する習慣があることを知った。

 いつも散歩がてら立ち寄って手を合せている寺院もその一つだという。神も仏も信じていないはずなのに変なものだ。神に祈ったからといって今更血に汚れた手が綺麗

になるはずもない。

 ナルトもいつか知るだろう。自分の隣にいる男は兄でも何でもない。自分を攫って殺そうとした男なのだということを……。

 悲しむだろうか、憎むだろうか。

 いつかナルトが自分に拳を向けたら、自分はどうするだろうか。

 回ってみようか、とサスケは思った。

 三十三ヶ所。巡礼している間は一緒にいられるのではないかと都合の良いように思う。

 この巡礼が終わったらナルトを里に返そう。

 何度も考えてようやく出た結論だった。

 四代目ならばダンゾウからナルトを守ってくれるだろう。

 火影の息子として、術を学び強くなって、人柱力として尾獣を制御することを憶えて……。

 いつか自分のことは忘れれば良いと思う。

(でも、俺は忘れねえ)

 繋いだ手の温もりも仄かに香るミルクの香りも。太陽のような笑顔も、日の光にキラキラ光る金の髪も。

 忘れない。機械人形でしかなかった自分に人を愛すること、大切に思うことを教えてくれた。

 この思い出だけを胸に――――。

「サスケ、サスケはいつもなにをおねがいしてるんだってばよ?」

「え?」

「おれはね。せかいいちつよくなってサスケをまもるんだってばよ!そんでもってサスケをしあわせにするんだってばよ!」

 誰かに愛されることの喜びを教わった。

 もう充分だ。満足しなければ罰が当たる。

「バーカ」

 ナルトの額を指先でチョンと小突く。

「百年早ぇよ」

 そう言って歩き出す。ナルトは「本当なんだからな!絶対強くなってやるんだからな」と真っ赤な顔で喚きながら後を追いかけてきた。

 

 INFOへもどる