晴れ渡った青い空を見上げ欠伸を一つ。
漂ってくる芳しい香りに鼻をヒクヒクさせながらナルトは大好きな一楽の暖簾を潜った。
「よ、ナルト」
大将がナルトの姿に笑みを浮かべる。
「久々じゃねえか?」
その言葉にナルトは小さく手を上げて「まあね」と答えた。
「まあ、深くは聞かねえけどな」
忍びの里に店を構える大将はそう言って、いつものラーメンを作り始めた。
ペインにより里が大打撃を受けてから既に七年。
街は活気を取り戻し、賑わいを見せている。
ナルトも上忍になり国外での任務が増えた為、里にいることが少ない。
好物のラーメンを口にするのも久々だった。
「よ、お待ち」
大将がナルトの目の前にラーメンを差し出す。
「サンキュー」
芳しい匂いにナルトはゴクンと唾を飲み込んで、割り箸を手に取った。
二つに裂いて、箸先を汁に浸した瞬間―――――。
「お、いたいた」
聞き覚えのある声が背後から聞こえてくる。
「やっぱりここだったな」
そう言ったと同時に後ろからナルトの襟を掴むとそのまま店を出ようとする。
ナルトは慌ててカウンターにしがみついた。
「サ、サスケ!ちょ、ちょっと待ってくれってばよ」
目の前には良い感じに湯気を放つラーメンがある。これを食べるまでは……と必死にカウンターに縋りつきなが声を上げた。
サスケは往生際の悪いナルトに目を細めた。
「今日は俺、休みだろ!」
ラーメンくらい食わせろ!とナルトが涙ぐむ。
「忍びに休みなんかねえ!」
しかしサスケは問答無用と襟を引く手に力を込める。
「う、でもよ〜」
確かにサスケの言うことは正しい。
休みなどあってないようなもの。
忍びにとって火影の召集は絶対で、任務は最重要事項だ。
だけど、今日は久々の休みで目の前には大好物のラーメンがある。
「これ、食ってからじゃ……」
未練がましく呟けば、サスケの鋭い視線がナルトに突き刺さった。
「分かった……行く。行くってばよ」
「当たり前だ」
さも当然と言わんばかりの彼の言葉にナルトは溜息を零し、目の前の手付かずのラーメンに未練を残しつつカウンターに小銭を置く。
気の毒そうに見つめる大将に「悪りぃ」と頭を下げてナルトは店を出た。
「おー、来た、来た」
火影執務室の扉を開けると緊急というわりには余りに緊張感のない空気が漂っていた。
木の葉の忍の頂点の火影であるカカシが手に持っていた湯飲みを机に置いて軽い感じで手を上げる。
机の上には大量の書類が所狭しと積み上げられていた。
まさかと思うが、この書類の整理を手伝えとかいうことだったら即効一楽に戻ってラーメンを食ってやろうとナルトは思った。
「何だってばよ」
扉を閉めながら問いかける。
久々に一楽のラーメンを食べる所だったのに、恨みがましく呟くとカカシは悪びれもせず「そりゃ悪かったね」と言って視線をナルトの隣にいるサスケに向ける。
「ご苦労様」
サスケは小さく頭を下げた。
「で、何の任務だってばよ」
ラーメンを食べ損ねたのだ、余程の任務に違いないとナルトはカカシを恨みがましく見つめる。
するとコンコンと扉をノックする音が響く。
「どうぞ」とカカシが答える前に執務室の扉が開き、五代目火影で現在隠居中の綱手が入ってくる。綱手の後を追って火影補佐官のヤマトも姿を現した。
「ばあちゃん、いつ帰ってきたんだ?」
思いもよらなかった人の姿にナルトは驚きの声を上げる。火影を譲った後、綱手は以前のようにシズネと放浪の旅に出ておりめったに里に戻ることはなかった
こうして顔を見るのは何ヶ月ぶりだろうかと思う。
驚くナルトに綱手は不敵な笑みを浮かべた。
「ちょっとね」
「今回の俺の任務に関係してる?」
「ああ。その為に帰ってやってんだ」
綱手の言葉にナルトはキュッと唇を噛み締めた。
二人の火影が揃うほどの任務だ。Aランク?いやSランクの任務かもしれない。
ラーメンは惜しいがそれならば諦められる。
胸に期待が広がっていく。
「サスケもいるし」
先ほどから無言のサスケにチラシと視線を向ける。
「もしかして今回の任務って」
サスケと一緒?
(それってすげえ久しぶりだってばよ)
里にサスケが戻った当初は常に一緒だったが、二人が上忍になった頃から組むことは少なくなった。
上忍が二人も同時に出向かなくてはいけないような任務そのものが少ないせいもある。
何故ならそれはA ランク以上の任務であるからだ。
(こりゃ、そうとうヤバイってばよ)
サスケと一緒ならばどんな任務でも平気だが、相当困難な任務であることは容易に想像できる。
気合を入れるように拳を握り締めるナルトの隣でサスケは溜息を零した。
サスケは今回の任務の内容を知っているのだろうか?
期待にドキドキと胸を膨らませながら澄ましたサスケの横顔にチラチラと視線を送る。
視線に気づいているはずのサスケは無視を決め込みそっぽを向いたままだ。
つれないサスケに頬を膨らませるとカカシのクスクスと笑う声が聞こえてくる。
「お前達相変わらずだね」
愛弟子を見る師匠の瞳にナルトは恥ずかしくなり頬を赤く染めると体を縮こまらせる。
「さっさとこのウスラトンカチに説明してやったらどうだ」
サスケは不機嫌そうな顔でナルトを一瞥すると口をへの字に曲げそう言った。里の代表者に対して些か無礼な態度ではあるが、彼を責める者はいない。
彼のこういう態度も心を許しているからこその振る舞いに他ならない。
「まあ、慌てるな」
綱手が楽しそうに言う。
その隣で溜息を零すヤマトにナルトはパチクリと目を大きく見開いた。
どうやらこの中で知らないのは自分だけのようだ。
カカシがコホンとワザとらしく咳払いする。
「さてナルト。早速だが、これからお前にはある試験を受けてもらう」
「へ?」
(任務ではなく試験?)
ここの所、しばらく聞いていない単語にナルトは首を傾けた。
「何の?」
既に上忍になった自分に何の試験があるというのか?
それに今のカカシの口ぶりからすると試験を受けるのは自分だけのようだ。
どういうことなのだろう。意味が分からず助けを求めるように周囲の人に視線を向ける。すると綱手はニヤニヤと笑みを深め、ヤマトは即座に視線を外した。
サスケは自分と視線を合わそうともしない。
(何だ〜?)
嫌な予感が胸に広がる。
再びカカシに視線を向ければ、不気味なほどニコヤカな笑顔にナルトの頬がヒクヒクと小刻みに震えた。
「カ、カカシ先生?」
(不気味だってばよ〜)
一体、これから自分は何をさせられるのか。想像するだけで恐怖が湧いてくる。
思わずナルトは身構えるように体を引いて、拳を握り締めた。
「そんなに身構えるな」
カカシが楽しげに言う。
「そんなにたいしたことじゃないよ」
そう言われても簡単には信用できない。
眉を寄せ、瞳を細めれば、カカシはやれやれと肩を上げた。
「まあ、そうは言っても真面目にやってもらわないといけないんだけどね。なにせ次期火影になる為の試験だ」
「え、火影に?」
「まあ、正確には次期火影の候補になる為の試験だ。サスケはその監視役兼サポートと言った所か」
なあっ、と話を振られてサスケは眉間に深く皺を刻んだ。