朱色の宝珠より 一部抜粋
上忍になり、新調したばかりの額当ての布地をキュッと結ぶ。
通常より若干長めなのはナルトの拘りで、布の先が風に靡く感じが良いらしい。
「じゃあ、行ってくるってばよ」
ナルトは清々しい笑顔でそう言って、元気良く二人の家を飛び出して行く。
その後ろ姿を見送りながらサスケは小さな笑みを浮かべた。
サスケが里に戻って二年――――――。
十八になり、二人は上忍になった。
サスケが里に戻り、最初に行われたのは様々な検査であった。何分、あの大蛇丸の所にいたのだ。呪印から解放されたとは言え、
等の実験を数多く受けている。それが里に害を為さぬものか、サスケの身体にどれほどの影響をもたらしているものなのか、徹底的
に調べられた。
検査の結果、サスケの身体にも、里にも、影響はないと証明された。
しばらくは隔離、独房という生活だったが、サスケにはどうというものでもなかった。
ナルトは「絶対に殺させない」と言ったが、本当はすぐさま処刑されると思っていただけに意外だった。
サスケが里に戻ったのは自らの意思ではない。
一時は一族を差別し、追い込み、イタチに板ばさみの苦しみを与えた挙句、同胞殺しをさせた里を本気で憎み、全て無くなってしまえ
ば良いと思ったこともある。
今も里の為とか、民を護る等という意識は少ない。
それでも辛い状況を強いられるだろう里に戻ったのは一重にあいつの為だった。
何度、突っぱねても追って来てサスケを呆れさせた。どんなに傷つけても真っ直ぐに向けられる瞳。何があっても自分との絆を信じ、
必死に強くなって追いかけて来た。いつの間にかその背中は広く、大きくなって……気がつけばあいつの背を見つめていた。
「帰ろう」とバカみたいに繰り返し、どんな状況下でも迷うことなく手を差し伸べてくる。
どうせ生かされるのなら、この手を取ってやるのも悪くない。
全てが終わり、何もかも失った自分に再び伸ばされた手を―――――。
戦いの最中、お互いに拳を重ね、既に息をしているのも辛いような状況下でナルトが言った。
「木の葉はお前を殺さない。俺が殺させない。お前を連れて帰る」
実力は互角―――いや、既にナルトの方が思いの分だけ上回っていたかもしれない。とにかくお互いに全ての技、チャクラを使い果し、
大地に仰向けに転がったまま動けない状態だった。
もはや歩くことさえ出来ないナルトは何とか体を反転させ、腹這いでサスケに近づくと投げ出された傷ついた拳を自分の手でそっと包み込んだ。
荒々しく息を吐きながら、ナルトが呟く。
「もう良い、サスケ。もう帰ってこい」
「何を…今更…この…まま…殺せ」
どうせ追い忍に殺される立場だ。ならばこのまま殺された方が良い。そう思いサスケは瞳を閉じた。
だが、いつまで待っても与えられるはずの死が訪れることはなく――――――――。
ポツポツと頬に落ちてきた水滴にサスケは目を見開いた。
「お前…」
「お前は殺さない。絶対に殺さないってばよ!そんで連れて帰る。俺が火影になるのを見届けろ!」
この状況下でそれを言うかとも思ったが……。
ナルトらしい。
サスケはフッと笑った。
里を抜けてから、笑うことなんかなかったのに、自然に顔が綻んだ。本当に不思議な奴だと思う。
(こいつの為に生きてやるのも良いかもしれない)
ナルトの進む道を見てみたいと思った。
多分、安穏とはいかないだろう。だがそれはそれで面白い。コイツが本当に火影になるのなら、それを見届けるのも悪くない。
「ナルト…」
サスケは痺れた腕を何とか持ち上げて、震える指でナルトの涙を拭った。
「仕方ない奴だ…」
「サスケ…」
「俺がついてやらないと、お前が火影になるのなんか何年経ったって無理だからな」
だから付き合ってやるよ。
そう言って笑うとナルトは顔を赤く染めて俯いた。
「てめえ…この状況で…その憎まれ口…」
「人のこと言えんのかよ」
指一本、動かすことだってキツイはずなのに、ナルトは此処まで這いずって来て自分を上から覗き込んでいる。
「バカサスケ」
ナルトはそう呟くとサスケの唇にそっと自分の唇を重ねた。
口の中に広がる鉄の味。
戦って、傷ついて、だけど手放せない。
「ウスラトンカチ……」
強い意志の炎が宿る青い瞳がまっすぐに自分を見つめていた。
重症で里に戻ったサスケは数々の更正プログラムを受けた。どれも本当に更正に必要なのかと疑問の残るものではあったが、真面目に
こなしたおかげで反抗の意志がないということはすぐに認められた。
帰還して半年が経つ頃、五代目の配慮もあり牢を出た。
その後は保護観察という名目で常にカカシ、ナルトとの行動を義務付けられたが、中忍試験を受けることも許可され、無事に昇格を果
たした後は戦いで忍び不足の里に貢献している。今でも多少、風当たりが厳しい面もあるが、普通に任務を任され、秋には上忍に昇格した。
保護観察中、サスケはナルトと一緒に住むことになった。
うちはの家は、周囲の反発もあり取り潰された為、致し方なかった。
どうせ任務と修行で家にはほとんどいない。
別に問題ないと言ったサスケにナルトは複雑そうに顔を歪めた。
二人で暮らし始めて―――――少し経った頃、ナルトが突然言った。
「俺ってばサスケが好きだってばよ」
サスケが好き。
だからずっと一緒にいたい。
サスケに触れたい。
ナルトはそう言ってサスケを抱き締めた。
悪くない。
恋とか愛とか、そんなものはクダラナイと思っていたが、相手がこいつなら悪くない。
それ以上にライバルだと思う気持ちの方が強いが、コイツの隣を誰かに譲ってやる気などなかった。
その頃にはナルトは以前にも増して強くなっていて、本当に火影になるのも夢ではないかもしれないと思う程、技にも磨きが掛ってきた。
自分が認めた者が認められるのは嬉しい。
最大のライバルであるが故に多少、悔しさもあるが、今の自分にとって何よりも大切なのはナルトの未来。
その為だけに生きているといっても過言ではない。
ナルトが進む未来を見届けてやる。
誰よりも近くで―――――――。
太陽の光が似合うナルトの後ろ姿。
あっという間に小さくなっていくその姿にサスケは目を細めた。
ナルトが任務に出て既に一週間が経過していた。
「サ、サスケ君!」
丁度、木の葉の門をくぐろうとしたその時、目の前に今にも飛びつかんばかりの勢いでサクラが現れた。
その様子にサスケは眉間に皴を寄せる。
「どうかしたのか?」
血の気の引いた青ざめた顔。小さく震える唇。今にも泣き出しそうな瞳。
勝気だが、何事も冷静に対処するサクラにしては珍しい。
サクラがこんな顔をして、自分の所に飛んでくるなんて―――――。
「何があった?」
あのウスラトンカチに何かあったとしか思えない。
サスケはサクラの肩を掴んだ。
「ナルトに何かあったのか?」
今回の任務の隊長であるカカシがサクラに問いかける。
サクラは小さく頷いて「とにかく来て」とサスケの腕を引いた。
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