君に御中より抜粋


 

「あいつ」

 サスケは大地を睨みつけ、低い声で呻いた。

 崖の上にある岩場で、一人取り残されたサスケに乾いた風が吹き付ける。

サスケはチッと舌を打った。

現在、サスケは中忍試験の真っ最中である。

第一、第二と試練を乗り越え、ついに個人戦へ駒を進めた。そしてついにあの男とやりあう。砂の国のいけ好かない

やつの顔を思い出し、高揚する気持ちに口の端を上げる。あいつを倒す。そして俺は強くなる。こんな所で立ち止まってな

どいられない。

 サスケが倒したいのはあんな奴ではないのだ。

 目的に近くづくために俺はもっと強くなる。

 その為に気に入らないながらもあいつに従っているというのに……。

ここに自分と一緒にいるハズの奴は、サスケには食料を調達に行かせておいて、自分は夕闇と共に姿と消す。

だいたいの行き先は分かっていた。

そりゃ誰だってこんな食料も満足にない崖の上より、里に戻った方が良い食事にありつけるというものだ。

しかしこの崖を上るのは大変だろうに……と少し呆れなくもないが、岩に張り付いたイモリを焼いただけの貧しい食事

では―――――腹がクルクルと威勢よく音を上げサスケはため息を零した。

「くそっ。だいたいこんな崖の上の岩場にまともなもんがあるかってかよ」

 見渡す限り、岩、岩、岩、岩だ。ここでは草一つまともに取れやしない。

 空を飛ぶ鳥に狙いを定め射止めることが出来た日はご馳走だ。

 強くなりたい。

 何が何でも強くなりたい。

 だがこれでは技を会得する前に体がもたないと思う。

 成長期なのだ。

「くそっ、腹減った」

 サスケは大地にゴロンと横たわり闇が広がっていく空を見上げた。

 今頃、あいつは馴染みの料理屋で舌鼓を打っているのかと思うとかなりムカつく。

 知ってるんだからな、と恨みがましく思う。

 時々、おでんか何かのだし汁の良い匂いをさせやがって……。

「白い飯が食いてぇ…」

 それから熱い味噌汁と……と想像して涎が出そうになり頬を赤く染めた。

「くそっ、こうなったら」

 何が何でも今日は鳥肉を食ってやる。この際、カラスでも何でも良い。

 決意も新たに、サスケは身を起こすとクナイを握り締めた。

 

 

 

 中忍試験も大詰め。

 修行は充実している。

 しかし――――――――。

「く、くっそう!」

 術が自分の思うようにいかないこともある。

 だが、それ以上にサスケを悔しがらせているのは、このどうしようもない空腹感だ。

「力が出ねえ」

 イライラする。

 ここのところ風が強いせいか鳥も飛んで来ない。

 食料に適したものが著しく乏しいのだ、ここは。

 自分の担当であるカカシはサスケを置いて毎晩出掛けてしまっているし……。

「俺もとりあえず降りるか……」

 そう呟いた瞬間、目の前に金色頭のあいつの顔が頭に浮かぶ。

『何だよ、もう根を上げたのかよ』

 そう言って笑うナルトの顔を想像して、サスケは今日まで耐え忍んできた。

 あいつに笑われるのは絶対に嫌だ。

 修行が辛くて逃げだして来たように思われるのも悔しい。

(あ…でも)

 サスケは空腹でぼんやりとした頭で思った。

(だったらナルトに会わなけりゃいいだけじゃないか)

 カカシを迎えに来たという大義名分もある。カカシがいるだろう料理屋に向かえば良いのだ。どこかは知らないが、何件か

あたれば見つけられるだろう。ついでに何か食べてやる。

「よし、待ってろよ!カカシ」

 崖を下るのも上るのも修行だと思えばいいのだ。この崖の上り下りはそれくらい大変だ。

 我ながら良い考えだとニヤリと笑う。

 サスケは食料を調達する為に一時、崖を降り里に戻ることを決めた。

 

 

 

 

 

 

会いたくないと思っている時は絶対に会ってしまうもの。

世の中そんなものかもしれない。

里に戻り、カカシが行きそうな店に行く途中、両手いっぱいにカップラーメンの入ったスーパーの包みを持ったナルトに

会ってしまった。

(いきなりかよ)

 周囲を伺っていたのに、交差点で出会い頭にあってしまったものだから、言い訳の仕様がない。

 しかもこんな時間に買い食いかよと胸の中で毒づく。

 カカシが消えてすぐに出発したが、辺りはすっかり闇に覆われていた。

 しかもカップラーメンばっかり買いやがって……。

「サ、サスケ!お、お前なんでこんな所に」

チッと舌打ちしてサスケはナルトの前から姿を消そうとした。だが、そうはさせるかとナルトはサスケの服を掴む。

「何だよ」

「何だよ、じゃねえよ!」

 ナルトが声を上げた。青い瞳が真っ直ぐにサスケに向けられる。

「し、し、しっ……」

 何故か真っ赤な顔で言いどもるナルトにサスケは首を傾けた。

「まさか心配してたとか?」

「何だよ!心配しちゃいけないのかよ!」

「いや、そういうわけじゃねえが……」

 意外だと言ったら怒るだろうか?

 キョトンと目を丸めたサスケにナルトはまるで茹蛸のようになっている。

「そ、それでよ……」

 ナルトは妙に照れた仕草で小さな声で呟く。

「お前…大丈夫か?」

「はあ?」

 サスケはナルトの言葉に眉間に皴を寄せた。

 大丈夫かとはどう言う意味だ?

 怪訝な眼差しを向けるとナルトはモジモジと指を絡めた。

「その……体平気かって聞いてんだってばよ」

「ああ、そのことか」

 そう言えば、ナルトとは中忍試験の予選の途中で別れたままだった。あの時はいろんなことがありすぎて、余裕が

なかったのだ。

 なるほど、それで心配している……か……。

 サスケは妙に納得してから、ハッとする。

(何だよ…それって…ちょっと待て…いや、そうじゃなくてだな)

 自分が誰かに心配されていたなんて思いもしなかった。

 それがナルトだなんて……。

 刹那、サスケは頬が照るのを感じ、顔を下に向けた。

「まあ…大丈夫だ」

「で、今はカカシ先生と修行中?」 

「まあな」

 そう答えるとナルトは「そっか」と笑った。

 カカシを独占していることにもっと拗ねた顔をすると思っていたサスケは意外なナルトの反応に首を傾ける。

「お前はどうなんだ?」

 ちゃんと修行しているのか?

 カカシはナルトに良い先生をつけて来たと言っていたが、それが誰なのかは聞いていない。

「おうよ。俺ってばめちゃくちゃ成長してるからな。お前なんかギタンギタンにしてやっかんな」

「へえ、それは楽しみだ」

 誰が教えているかは知らないが、ナルトのやる気から今の先生と上手くやっているみたいだとホッと胸を撫で下ろす。

(何を安心してんだ俺は)

 サスケは自分に突っ込みをいれながら、本来の目的である『カカシの捕獲」を遂行するべくナルトに背を向けた。

 しかし、その瞬間―――――――――――。

 腹がけたたましい音を立てた。

「くっ」

 背中を向けていても、キョトンとしたナルトの視線を感じてサスケは赤くなる。それこそ耳から首筋まで―――――――。

 考えてみれば今日は朝おにぎりを食べて以来、まともなものを口にしていなかった。

「何だよ、お前。腹減ってんのか?」

「うるせぇ」

 とっとカカシを見つけて、今日は奢らせてやる。

サスケはそう決意も新たにその場を立ち去ろうとした。しかしナルトがサスケの服を掴んだ為、動けない。

「何だよ!」 

 腹がすいているのがおかしいかよ、と半ばキレ気味に振り返れば、満面の笑みを浮かべているナルトの顔があった。

「へへへ。今日は限定ミソが安売りだったんだってばよ」

「それがどうした」

 相変わらずラーメンばかり食べている奴だと思う。だが、今はそのラーメンでも草とかヤモリなんかよりは数倍良い。

 自慢か?と思ったがどうやらそういう訳ではないようだ。

「ご馳走してやるってばよ」

 ナルトはニコニコ笑顔でそう言うとサスケの腕をガシッと握った。

「良いから、良いから」

 そう言って強引に引っ張っていく。

「お、おいっ」

 自分にはカカシを探すという使命がある。

 だが限定ミソはともかく、カップラーメンでもこの空腹を満たせるものの存在は魅力的だった。

 結局、逆らう理由もなくサスケはズルズルとナルトの家に引っ張られて行った。