あなたの明日を想うとき サンプル

 

 

 小さい時、夕焼けを見た。

 金色の稲穂が揺れる田んぼ道を歩きながら、その人は肩車をしてくれた。

 綺麗な夕焼け。

 空が真っ赤に染まっている。

 その光景にナルトはブルッと体を小さく震わせた。

 丸い太陽が山と山の間に沈んでいくのを見ていると、なんだか吸い込まれそうで怖かった。

 その人は小さく笑って「心配するな」と言ってくれた大丈夫だ。

 呪文のようにその人は言葉を繰り返す。

 お前のことは俺が守るから。だから大丈夫。

 小さな体を抱き上げて肩に乗せて、その人が呟く。

 太陽はとても大きくて、近くにあるように見えるけれど、本当はとても遠くあるんだ。

 だからどんなに手を伸ばしても太陽に手が届かないように、お日様がナルトを傷つけることはない。

「どんくらいとおいんだってばよ?」

 尋ねればその人は笑う。

「遠くだ」

「だからどれくらい?」

 何日歩けば太陽に近づけるの?どこまで行けば太陽は・・・・・・。

 その人は笑みを浮かべたまま別の方角を指さした。

 そこにはうっすらだが月の姿が見える。

「月も太陽もずっとずっと遠くだ」

 どれだけ歩いても決して辿りつくことはない。

「怖くないってば?」

 茜色の空を見つめ尋ねれば、その人は言った。

「本当に怖いのは人の心だ」と―――――。

「こころ?」

「そうだ悪意は人を傷つける」

 人を深く傷つけられるのは「人」だけなんだとその人は言った。

 傷つけば痛いし苦しい。

「サスケは?サスケもくるしい?」

 苦々しく顔を歪ませたその人があまりにも辛そうで、キュウと胸が痛くなった。

 傷つけたくない。

 苦しめたくない。

 全てから守ってあげたい。

「だいじょうぶだってばよ!

 ポンと胸を叩いてそう言うと、その人は驚いた顔をした。

「おれがサスケをまもってやるってばよ」

 だから辛そうな顔なんてしないで欲しい。

 大好きな人。

 誰よりも自分を愛してくれる人。

 頭にすがりつくとその人はそっと小さなナルトの背中をそっと撫でた。

「大丈夫だ」

「サスケ?」

「俺はお前がいるからちっとも苦しくなんかねえよ」

 その人のその言葉が嬉しくて、ナルトは顔をパアっと輝かせる。

 今日も明日も、その先も。

 ずっとずっとその人を俺は守るんだと空に誓った。

 

 茜色の空。

 その人が大丈夫だって言ったから、もう怖くはない。

 だって俺にいつだって隣で微笑んでくれる人がいる。

 俺は生まれてからずっとその人と一緒だった。

 寝るときもご飯を食べる時も、お風呂だって。

 その人は優しく頭を撫でてくれ、時に厳しく叱ってくれた。

 二人で生活する為にはお金がいるから、その人は働いていた。仕事に行っている間は待ってなくちゃいけなかった

のが辛かったけど、近くにいる人たちはみんな良い人だったし、帰ってきたその人が俺の頭を撫でてくれるのが嬉し

くて「行かないで」なんてワガママは言わなかった。本当はいつだって傍にいて欲しかったけど、家に帰ってきたそ

の人は俺を抱きしめて一緒に眠ってくれる。

 本当にーーーーあの瞬間まで俺は知らなかったのだ。

 俺を連れて橋を渡ろうとしたその人の前に数人の男が現れた。

 その人は抵抗しようとしたのだと思う。俺を守るように後ろに隠し、腰のポーチに手を掛けた。だけど、一人が近

づいてくるのを見て、諦めたように笑った。

 

 その人は俺の家族なんかじゃなかった。

 

 親元から自分を浚い逃げていた。

 ずっと騙していたのだ。

 だけど俺にはどうしても信じられなかった。

 だって「悪意」なんてなかったはずだから。

 受け取ったのは愛情。

 誰よりもその人は俺を愛してくれていたのだと今も信じている。

 



 その人と別れてから十二年の月日が流れた。