金の宝冠 一部抜粋

 

「なあ……いつまで続くんだよ」

 そうぼやくナルトをサスケは睨みつける。

 確かに先ほどから見渡す限り、砂、砂、砂でいい加減この景色も見飽きてきた。

 それだけではなく、一本の木もない風景は方向感覚を鈍らせる。真っ直ぐ前に歩い

ているはずだが、全く景色が変わっていない為、幾らも進んでいないような錯覚を覚える。

 それにプラスしてこの日差し。

 遮るものが何もない空間で熱を孕んだ光が二人に照りつける。

 上からだけではない。足元からも光が照り返して、たまらなく暑い。

 この熱波だけでも体力は奪われるというのに、さらに足に絡みつく砂が鬱陶しく、消耗していく。

 体に篭った熱を吐き出すようにフウッとサスケは息も漏らした。

 

 風の谷を出て二週間。

 二人が里を出てからは既に半年以上の時が流れつつあった。

 事の発端はある任務から。

 その任務とは川の国の宮司からの依頼で『明王』と呼ばれる朱色の宝珠を渦の国にある豊授神宮に

奉納する為の警護というものだった。

 任務そのものはBランクで物足りないものであったが、上忍になったばかりのナルトは意気揚々と里

を出て行った。その頃のサスケはまだ単独で里を出ることは許されてはいなかった。国外任務に赴くナ

ルトの後ろ姿を見送った。あの時はこの宝珠が国宝級の宝だという他には何も知らなかった。

 きっかけは山賊に襲われたことだという。

 木箱から飛び出した宝珠をナルトが拾い上げようとしたその瞬間、珠は光を放ち、その場に居た者達

を焼き殺した。

 高温で焼かれ、一瞬で炭となる。

 その中で唯一ナルトだけは無事であった。

 しかし、その現実はナルトにとって恐怖でしかなかった。

 何故、自分一人が無傷なのか?

 何故、宝珠を拾い上げた瞬間から、仲間が黒い塊と化したその瞬間までの記憶がないのか?

 ナルトは腹の中に邪悪で強大なチャクラを持つ九尾を飼っている。

 修行により、今は九尾をコントロールし、その力を自分のものとして使えるようになっていたが、それで

も油断ができないことには代わりがない。

 九尾はいつだって自分と入れ替わることを希み、願っているのだ。

 最初、ナルトは自分の力の暴走を疑った。

 疑う要素はいくつもあり、それは確信に近かった。自分が殺したのだ。仲間を依頼人をみんなを殺した。

現に自分には記憶がない。そして力もある。疑いようもない。

 だが疑問も残る。 

 辛い修行を経て、ナルトは九尾をコントロールする術を得ていた。修行中、九尾の邪悪で凶悪な負の感情に

流されそうになったこのあるが、母の想いが自分を力づけ、両親からの愛情が自分を支えてくれたお陰で乗り

越えることができたのだ。

 力のコントロールは完璧だった。

 それなのに暴走するなど有り得るだろうか?

 もちろん人である故に心が弱ったり、負傷や病気などにより身体的に力が弱まることもある。そんな時は通常

より少し箍が緩いかもしれない。油断をすれば九尾が表に出てくる可能性もある。

 だがあの時、ナルトは精神的にも肉体的も弱っていたわけではない。もちろん九尾の力を解放したいなどとも

思ってはいなかった。

 もし本当に仲間を殺したのが自分ならば、それは何か要因があるはずだ。

 そう考えて、考えてナルトはある一つの結論に達した。

 自分が手にしている珠。

『明王の石』

 この石の力なのではないだろうか?もし違うとしても、この力は尾獣に何らかの影響を与える可能性があるので

はないだろうか?

 ナルトはそれを確かめるまで里には戻らないことを決意した。

 その為にまずナルトが行なったことは『明王の石』を持っていた宮司の家に行き、石に関する書を探すことだった。

盗んだわけではない。あくまで借りた。里に知らされるわけにいかなくてこっそり持ってきてしまったが、全部が終

わった後に返しに行こうと決めている。ナルトはそこで五つの神具とそれが委ねられた場所を知った。

 遥か昔、強大な力を持った妖がいた。妖は王となり、圧倒的な力で人も妖怪も制圧し、世界を闇で覆いつくさんと

した。そこで神は自らの僕である五人の導師に神の力の宿る道具を与えたという。導師は命を賭して王を封じた。

 まるで絵物語。しかしその神の力が宿りし道具は存在する。

 封印の力を持つ『明王の石』、解放の力を持つ『暁の石』、浄化を司る『銀の宝剣』、守護と審判の力を持つ『青

銅の盾』。この四つは今二人の手元にある。残るはあと一つ。

 いろいろあってここまで来た。

 おそらく自らの意思でありながらそうではない。

 ナルトもサスケもずっと何かに導かれているようなそんな気がしていた。

 それは妖の王か?それとも神なのかは分からない。

 いずれにせよ里に戻る為にも何としても最後の『金の宝冠』を手に入れて、理由を知らなければならない。

 神具はいずれも持ち手を選ぶ。彼らはナルトを主に選んだ。それは何故なのか?

 銀の宝剣だけはナルトよりもサスケに懐いているようだが……。

 今、手にしている神具に問いかけても何も答えてくれない。だが、全てが揃った時、何か分かるはずだ。

 全ては最後の神具に掛かっている。

 

 強い日差しを避ける為に纏ったケープのフードを目深に被り直して、サスケは額の汗をそっと指で拭った。

 未だ街らしきものは見えない。だが、景色は少し変わった。

 先ほどから半分砂に埋まった柱やら、古い建物の跡のようなものをよく見かける。そういえばこの辺りは遺跡が多

く出ており、数多くの発掘調査隊がこの辺りを調べているのだと聞いたのを思い出した。

 何でもこの辺りには嘗てとても栄えた国があったそうだ。高度な文明をもつ国。しかし数百年前に起こった大津波

に飲み込まれ国の半分以上が海に飲み込まれた。大津波の原因はいろんな説があるものの数百年経った今となっても

正確なことはわかっていない。

 残った大地も砂漠となり砂に覆われたと聞く。

 今ある渦の国はその大国が滅びた後、砂漠から海に出るほんの僅かな大地に築かれた小さな国だ。

 それも幾度となく他国の支配を受け、今は火の国の保護下に置かれている。木の葉の里と面積もそう変わらず、

自治権を火の国に委ねる渦の国は『国』というよりは『街』に近いだろう。

 だが、そんな渦の国において例外的に場所がある。橋一本で繋がった小さな島。唯一津波の災害を免れたとされ

る海の上の大地。豊授神宮はその島にあった。その為、昔から豊授神宮は神聖な場所とされ、渦の国が他国より侵

略を受け、国としての機能を持たなくなっても、神宮だけはそれ単体で別の国のように扱われ、独自の文化と慣わし

を維持している。渦の国そのものよりもよほど『国』らしいとサスケは思う。

 豊授神宮は数百年前の建物が現存しており現在も貴重な文化遺産とされているだけではなく、神宮の巫女は強い

神通力を持っており、神の依り代となることができると聞く。信者も多く、各国に要人も数多く参拝しているらしい。

巫女の統治する神宮は一応渦の国に属してはいるが、本国さえも持っていない自治権を持つ全く別の国と言えるだろ

う。

 神の使いと言われる巫女ならば神具についても何か知っているだろうと思う。いや、知らないわけはない。サスケ

が読んだ巻物の妖を封じた場所というのは失われた大国のことだ。そしてナルトの持つ書にはこう書いてあった『神

の降り場所』。五つの神具はこの豊授神宮にて神より導師達に手渡されたのだ。

「サスケ、なあそこでちょっとだけ休んでいかねえ?」

 砂漠に突き刺さった柱と斜めに崩れた天井の間にはある空洞を覗き込みナルトが声を掛ける。どうやら発掘された

遺跡の一部のようだ。神殿か何かのようだが既に調査が終わっているのか人の姿はない。天井の石は不安定で今にも

崩れそうだ。こんな所で一休みなんて賢明とは思えないが、僅かにできた影は灼熱の太陽の下ではとても涼しげに見

える。覗き込めばどうやら砂に埋もれてしまった遺跡の入り口のようだ。石の階段があり、奥深くに進むことができ

そうだ。だがかなりの深さがあるようで闇に覆われ入り口からは奥を伺うことはできない。

「行ってみる?」

「バカ、入り口が崩れたらどうする」

 不安げに問いかけてくるナルトにそう答えると「そうだよな」と笑ってあからさまにホッとしたように息をつく。

そういえばナルトはホラーが苦手だった。こういういかにも幽霊が出そうな所は恐いらしい。くだらないとサスケは

思う。元々、幽霊や妖怪など目に見えないものは信じない性質だ。今回、そうも言っていられない事件に巻き込まれ

まくっているがそれでも基本、本当に恐いのは欲を持った人間だというスタンスは変わっていない。

 熱を持った体を僅かながらでも冷やしたくて、二人は狭い入り口に身を屈め体を潜り込ませた。日陰でほっと息を

つくと改めて周囲を見回す。

 どこまでも続く広い砂漠。この砂漠のどこかに『金の宝冠』はあるのだ。遺跡の中というのが一番考えられるだろ

う。しかしその遺跡というのが多い。考えてみれば大半が海に沈んだとはいえ、繁栄した国がこの砂の下に眠ってい

るのだ。遺跡の数も途方もない。一つ一つ探していくとなると何年掛かるか想像もつかない。

 やはり頼りは神宮の巫女。

 一般人では彼女に会うことはできないと聞いていたので予め火影からの親書も貰ってある。

「しかし……暑いし、多いってばよ」

 砂からニョキをまるで生えているように延びている柱だけもいくつもある。

 ナルトは遺跡の数にうんざりとして呟く。すると神妙な面持ちのサスケが思いもしなかったことを呟いた。

「変だな」

「へ。何が?」

「気づかないか?さっきから誰にもあってない」

 ここは砂漠だ。

 人がこぞって歩きたがるような場所ではない。人がいないことをナルトは不思議だとは思っていなかったのだが、

サスケは違うようだった。

「そう言えばそうだってばよ。でもそれって何か変なのか?」

 何がおかしいのかわからず疑問符を投げかけるとサスケはキュッと唇と噛み締めた。

「ここらへんの遺跡は各国の調査団が年中調査にあたっているはずだったよな」

 確かそう聞いている。

 日中の高温とは裏腹に夜は氷点下になる過酷な砂漠。しかしそんな劣悪な環境の中で貴重な遺跡とどこかにあると

いう財宝を探してこの砂漠には年中何処かの国の調査団や冒険家達が訪れているという話だった。

 しかし今のところ二人は誰とも会ってはいなかったし、それらしいテントも見つけられていない。調査団の場合、

長期になることが多いので、砂漠のどこかに本部を構え、テントがいくつも並んでいるはずだ。しかしそう言ったも

のは一切見ていない。

「今は時期じゃないから・・・とか?」

「ウスラトンカチ。おそらく例のことが関係しているはずだ」

 例のこととは風の谷に行く途中で立ち寄った村で出会った少年から聞いた話だ。数ヶ月前、ある調査団が『金の宝

冠』

を見つけたという噂が広まったらしい。その噂を信じて数多くの調査団と冒険家達がこの砂漠に訪れた。渦の国とし

ても真相を知るため他国に調査を依頼した。

 そんな折り考古学を専攻していた少年の兄は渦の国からの依頼で調査団に加わり、この砂漠に赴いた。そこで本当

に金の宝冠を納めた神殿を見つけたのだという。しかし一行が金の宝冠を目にした瞬間、神殿は跡形もなく消え去り、

彼らは元の砂漠にいた。

 その後はもう何処を探しても神殿は見つからなかった。

 本当に自分たちの見たものは現実だったのだろうかと調査団が疑うのも無理はなかった。しかし、調査団は夢でな

いとこを知っていた。何故なら神殿を最初に見つけた隊員がいなくなってしまったのだ。

 調査団は神殿と共に彼の行方を捜したが見つからないまま、調査期間を終えた。自分たちの国に戻った調査団は隊

員の唯一の身内である弟に彼は死んだと伝えた。

 話はそれで終わらない。弟の元に死んだはずの兄から手紙が届いたのだ。手紙には『金色に輝く美しい冠を見つけ

た』と書いてあったという。

 金色に輝く冠。金の宝冠であることは間違いないだろう。

 その噂は瞬く間に調査団の間に広まったと言う。しかし、その頃から不思議なことが起き始めた。人が消えるとい

うのだ。それも金髪碧眼の年の頃は二十歳前後の青年ばかりが姿を消す。

 派遣された国も所属している調査団も違うというのに彼らは荷物もそのままに次々にテントからいなくなった。

 奇妙なことが起こり、調査団は次々に撤収し、現在はどこの国もこの遺跡に関わっていない。

 此処への道すがら茶屋で聞いた話は本当だったようだなと思いつつ。サスケはチラリと横にいる男を見た。

 消えた男達に共通するのは金髪碧眼。そして年齢。

 自分のパートナーであるこの男も同じ金髪碧眼で年齢的にも相応する。

 これが偶然だとは思えない。

「なあ、サスケ。今、人の影みたいなもん見なかったか?」

 突然、ナルトが声を上げ指差す。

 考え事をしていたサスケは顔を挙げ、ナルトの指が示す方向に視線を向けた。

 今、自分たちがいるのと同じような遺跡がある。

 つい最近まで調査団が入っていたのだろう。遺跡の入口はロープで補強されていた。半分、砂に埋もれた柱と崩れ

かけた屋根。その影に人らしきものが見える。

 二人は立ち上がり、歩いて数メートル先の遺跡に駆けつけた。

 

 

「おい、大丈夫か」

 補強のロープを握り締め、青年が一人蹲っている。

 青年は調査団の一員と思わしき薄いベージュのポケットが沢山ついた服を着て、頭には鍔がついたヘルメットを

被っていた。

 細身の肩が荒々しい呼吸に激しく上下している。どうやら過呼吸を起こしているようだ。

 苦しそうな背中をさすってやりながらサスケはポーチから袋を取り出し彼の口元に当てた。

「落ち着いて息をしろ」

 青年がコクコクと頷きながらロープをキュッと握る。

 ナルトはタオルを水で濡らし青年の額に当てた。

 青年の呼吸はすぐに落ち着いた。まだ顔が青いが、苦しみの表情が消えていく。

 ホッとするナルトにサスケは顎を上げた。青年の帽子から覗く金の髪。サスケが何を言いたいのか直ぐに分かる。

 服装。金の髪。調査団が撤退した後の遺跡に彼がいる理由。

 攫われたとされる青年の一人か?

 違うとしても金の宝冠に関係する可能性は高い。

「大丈夫かだってばよ?」

 問いかけると青年はコクン頷いて、苦しげに閉じていた瞳を開いた。

 その瞬間、ナルトは違うと直感する。

 自分に向けられた瞳の色は『翠』。深いエメラルドの色だ。消えたとされる青年達とが違う。

「悪かったな」

 彼はかすれた声で礼を言った。まだ辛そうな青年に手を貸してやり体勢を変えてやる。遺跡の柱に背を預けるよう

にして座ると青年はハアッと息を漏らした。

「急に目の前が真っ暗になっちまって……」

 もうダメかと思ったと青年は苦笑いを浮かべる。

「どうしてこんな所に?」

 尋ねると青年は困ったように眉を下げた。

「あんた達こそ。木の葉の忍だろ?」

 こんな所に何のようだと逆に尋ねられ二人は顔を見合わせた。

 しかし、告げるより先に青年は理由を見つけたようでポンと手を叩く。

「水礼祭りか」

「え?」

「他国の警護が来るって話は聞いてなかったが、五十年に一度の祭りだもんな」

 青年は勝手に納得してウンウンと頷く。

 そういえば、茶屋で祭りがあるという話を聞いていたのを思い出し、二人は乾いた笑みを浮かべた。そう言うこと

にしておいてくれればありがたい。渦の国は現在火の国の保護化にあるわけだし、木の葉が警備を手伝っても不思議

ではないだろう。

「ああ、まあ。そんな所だ」

 ナルトに余計なことは言うなと瞳で制して青年にそう答えた。

「でもラッキーだったぜ。あんたらが来なけりゃ死んでたかもな」

 誰もいない砂漠で過呼吸なんて普通なら死んでいてもおかしくはない。

「で、あんたは?」

 何故、こんな所に一人でいたのかを尋ねると青年はウッと息を詰まらせ、辛そうに瞳を細めた。 



BACK