SEIZINより抜粋
「乾杯!」
掛け声を上げてナルトはビールのジョッキを持ち上げた。
カチンとグラスが合わさる音がして、ジョッキに口を添える。
冷たい琥珀色の液体を喉に流し込んでパアッと声を漏らす。
「美味ぇ!」
「…まあな」
同じようにジョッキに口をつけながらサスケは呆れたように息を零した。
騒がしい居酒屋のカウンターの片隅でナルトと二人肩を並べて酒を飲む。お互い二十歳になってから、任務の帰りなど
ちょくちょくこんな風に酒を酌み交わすようになっていた。
帰ってもどうせ一人だし、夕食を作るのが面倒だということもある。
この居酒屋は比較的安くメニューが豊富なので二人とも気に入っていた。
それにしても、今日は騒がしい。
いつもはそれほどではないのだが、限界まで人の入った居酒屋で浮かれた声があちらこちらから聞こえてくる。
それにしても何故、ナルトまで……とサスケは上機嫌のナルトの横顔を眺め小さく溜息を零した。
別にビールなんて初めて飲むわけでもないのに目の前のナルトの浮かれようが良く分からない。
ナルトだけではない。
みんな何がそんな嬉しいんだと思う。
「だってよ、成人だぜ、成人!」
今日は里で成人式が行なわれた。里に住まう成人に達した者達を一人前の人間として社会的に認める為に行なう儀式
である。
「これで大手を振って酒もタバコもできんじゃん」
「まあ、そうだが……」
タバコは吸わないし酒も嗜む程度であるサスケにとっては今までとそう変わらない。
大体、忍びには成人なんて関係ない。与えられる任務は常に一人前として行なう。
儀式なんて無駄だと思うのは自分だけなのか?嬉しそうにビールジョッキを傾けるナルトにサスケは溜息を漏らした。
二人の入った居酒屋ではあちらこちらから新成人団体の祝杯の声が聞こえてくる。
「良いのか?」
「ん、何が?」
「シカマルやキバにも誘われてたんだろ?」
視線を向ければ一張羅を着た男が軽快に笑いながらビールを一気に呷る姿が目に入った。
「良いの、良いの。今日はサスケととことん飲もうって決めてたんだから」
何故?とは聞かなかった。
サスケは「そうか」と呟いて淡々とジョッキを空にする。
「あ、ビール二つ追加ね」
ナルトが空になったジョッキを振って飲み物を追加する。
今日のナルトは上機嫌だ。
何ががそんなに嬉しいのか不思議に思い問いかければナルトは驚いたようにサスケを見た。
「大人になったんだぜ」
形式上ではあるが大人として認められたのは確かだ。
だがそれだけのことである。
「今更大人もねえだろ?」
二人が行なう任務には大人も子供もないのだから。
「そうだけどよ〜」
ナルトはつまみを口に放り込みながら口を尖らせた。
「なんか嬉しくない?」
「別に」
子供の頃は早く大人になりたかった。
認めて欲しかったから。
一日も早く大人の忍びになりたかったが、今はどうだろう?
今日から大人ですと言われても実感なんてわかない。
大体、子供らしく生きることを許されなかった自分達に大人であることの意味なんてあるのだろうか?
「変わんねえよ」
そこで賑やかに騒いでいる普通の青年なら違うのかもかもしれないが、自分達は何も変わらない。
明日も任務があるだけだ。
「じゃあさ……」
ナルトが何か思いついたようにそう呟いて、机の上に置かれたサスケの手に自分の手を添えた。
意図が読めずサスケは眉を寄せる。
「大人っぽいことする?」
「はあ?」
何を言ってると疑問に思うサスケの耳元に顔を寄せてナルトが内緒話をするように囁く。
「……キス」
「バカじゃねぇの?」
何故、大人っぽいこと=キスなのか理解できない。
だけど不覚にも熱っぽい声で囁くナルトに胸がドキッと高鳴ってしまった。
「だよな〜」
ナルトはサスケの言葉に寄せた顔を離しながら笑う。
「でもさ俺、おまえのこと好きだからさ」
ダメか?と尋ねたナルトは机に肘を突いてほんの少し首を傾けた。
青い瞳が覗き込むようにサスケを見つめる。
その熱い視線に胸が高鳴った。
「俺としてみねえ?」
ナルトはそう言うとニッと口角を上げた。
「どんな口説き方だよ」
思わず火照る顔を隠すように横を向き運ばれてきたビールを呷る。
「告白るならちゃんと告白りやがれ」
冗談めかしてそう言えば、ナルトは拗ねたように口を尖らした。
「えー、サラッとさり気なくて良くねえ?」
「良くねえ!」
バーカと笑って、空になったジョッキを机に戻した。
「おい、一気かよ」
大丈夫か?と肩を抱かれる。
昔は自分より小さかったくせにいまではすっかり逞しくなって広くなった胸を感じ、サスケはチッと舌を打った。
「ひっつくな、うっとうしい」
「照れんなって」
「照れてねえ」
嫌がらせとばかりにナルトのまだ口をつけていないビールに手を伸ばしジョッキを呷る。
「あー、それ俺の〜」
「大人なんだろ?細かいこと言うなよ」
「それとこれとは……」
違うだろと拗ねたように呟くナルトの頬をサスケは指で突いた。
「顔が赤いぞ、ウスラトンカチ」
「お前だって」
いつもは額宛をしている部分が白く残っている。
サスケはナルトの金色の前髪をかき上げて、額に指を這わせた。
ナルトの瞳が揺れる。
その奥にある欲望にサスケは小さく笑った。
「告白の次がやらせてかよ。単純だな」
「うるせえ!」
見る間にナルトの顔の赤みが増していく。
相当飲んだかのように耳まで真っ赤になったナルトの手の平の上に自分の手の平を重ねれば、ビクッと背後で体が揺れた。
「サスケ……」
「ケダモノ」
耳元に唇を寄せて息を吹きかけるように囁く。
酔っているなと思いつつ、サスケは耳に掛かる黒髪をかき上げた。