「あのさ、あのさ」
色とりどりのネオンの前でナルトは頭を掻いた。
「大事な修行だって言ってなかったか?」
「おう。修行じゃ。大人の階段を登る為に欠かせなない修行だ」
自来也と修行の旅に出て二年。もういい加減、自来也の女好きや夜遊びには慣れたつもりだったが……。
ほぼ毎晩、自分を宿屋に残し一人で出かけて行く自来也だったが、今日に限って「修行だ。着いて来い!」というので、何も考えず来てしまった自分が馬鹿だったとナルトはひどく後悔した。
「お前も十五。そろそろ女の子あつかいの一つも憶えにゃならん」
そう胸を張って言う自来也に呆れながらナルトは色町に背を向けた。
「良い。今は強くなることしか興味ねえもん。遊んでいる間なんてないってばよ」
金と時間の無駄。そんな暇があるのなら早く寝て明日の修行に備えたい。
「それはイカーン!」
すると自来也がイカン、イカンとブンブンと首を横に振った。
「な、何がいけないってばよ」
思わず振り返る。
すると自来也はナルトを指差して
「お前は以前に比べれば強くなった。背も伸びたしの。大人の忍びに成長しつつある」
「そ、そうだろっ」
自分の話に食いついてきたナルトに自来也は笑みを漏らす。
「だが、足りないものがある」
「足りないもの?」
考えるように真剣な顔つきで眉間に皴を寄せるナルトに自来也は「単純というか、純粋というか。こういう所はミナトそっくりじゃのう」と心の中で呟いた。ナルトの父親であるミナトを初めて色町に連れて来た時もなかなか笑えたものだ。ナルトと違い優等生タイプだったが信じやすく超がつくぐらいウブなミナトを思い出し自来也はププッと噴出した。
「な、なんだってばよ!」
何故自分が笑われているのか分からずナルトが頬を膨らませる。
「おう、悪い悪い」
つい可愛かった弟子を思い出して一人で悦に浸ってしまっていた。
ナルトにはまだ父親のことは何も話していない。
もう少し成長したら話す時も来るだろう。
まあ、それはともかく……。
「足りないもの。それは余裕じゃ」
「余裕?」
「そうじゃ何事にも動じない。冷静な判断ができるのは余裕があるからじゃ。これからここでその余裕を身に着ける為の修行を行なう」
自来也の言葉にナルトはキョトンと首を傾けた。
「ここで?」
「そう。ここでじゃ」
どう見ても色町のネオン街。あっちこっちで客引きをしているミニスカートの女の人を見かける。
「余裕ね…」
もっともらしいことを言っているが単に女遊びしたいだけじゃないか?と思いつつナルトは諦めたように肩を落とした。
興味ないとは言ったもののナルトも思春期の男の子には違いない。
スナックのボックス席で露出多めのドレスに身を包んだ女の人に囲まれて、なす術もなく俯いた。
「まあ、可愛い」
自然に胸とかお尻とかに目がいってしまう自分に赤面する。
「ほれ、どうした。どうした」
そんなナルトの向かい側では自来也は楽しそうに女の肩に腕を回して酒を注いで貰っていた。
一応未成年であるからナルトのグラスにはウーロン茶が置かれているが、酒の匂いと女の香水で酔いそうだと思う。
「なあ、エロ仙人。俺やっぱりさあ……」
しどろもどろにそう言うと
「余裕、余裕が足らんぞ!」と笑われるので席を立つこともできない。
(どうすりゃ良いってばよ)
なるべく女の人を見ないように俯くナルトだったが……。
「本当、可愛いわ、坊や。お姉さんが食べちゃいたい」
隣の女がそう言ってナルトの手を握り締める。
ナルトは驚いてその手を振り払うと目の前のウーロン茶のグラスを掴んで冷たい液体を喉に流し込む。
女はそんなナルトにクスリと笑みを漏らし「可愛いわ」と呟いた。
「おう。そいつまだ何にも知らんのでな。教えてやってくれ」
自来也が女達を煽るように言う。その言葉に女達はキャーと楽しそうに声を上げた。
「じゃあ、私が教えちゃおうかな」
別の女がナルトの肩にふくよかな胸を押し付ける。
持っていたグラスがカタカタと音を立てた。
(も…ダメだってばよ)
これ以上はダメだ。店を出よう。そう思い腰を上げようとした瞬間、肩から胸の感触が遠のいていった。
ん?と思いナルトは顔を上げる。
するとナルトの隣の女が先ほどまでの女とは代わっていた。
黒い綺麗な髪を後ろに束ねたどこか店に似つかわしくないような清楚な感じのする女が隣に腰かける。
「あ…」
女に目で言われ、反対側に座っていた女も席を離れた。
自来也についていた女もすべて立ち上がと違う席に行ってしまった。
ボックス席には黒髪の女とナルトと自来也だけが残される。
「で、持ってきてくれたのかの?」
自来也はその女と面識があるのか当たり前のようにそう言って手を出した。
女は綺麗な顔を歪ませて巻物のようなものを自来也に渡す。自来也はそれを確かめたあと女に銭を渡した。
「この子が今の自来也様の弟子ですの?」
女がナルトを見て柔らかな笑みを浮かべる。
「また可愛らしい」
「か、可愛くなんか!」
思わずそう叫んでしまってからナルトは俯いた。
自来也が「まだまだだのう」と呟く。
「いつもワシが言っておるだろうが。こういう所は情報の宝庫なんじゃって。情報屋もおるでのう」
そう言って自来也はチラリと女に視線を向けた。
女は視線を笑顔で返し、空になっていたナルトのグラスにウーロン茶を継ぎ足した。
「あ…ありがとう」
足されてしまうとどうにも席を立ちにくい。
仕方なくナルトはグラスに手を伸ばした。
「さて、ナルトはセトナに任せてわしは向こうの席にうつるかの」
「え、エロ仙人」
ごゆっくり〜と無責任なことを言って自来也は空いている席に移動してしまった。そんな自来也を追うように女が三人席につく。
楽しそうな声が聞こえてきてナルトはやっと我に返った。
自来也がセトナと呼んだ女がクスクスと笑っている。
「こういう所は初めて?」
「お、オス」
思わず変な風に答えてしまって益々笑われる。
「えっとお姉さんは…」
「あなたと同業者よ。渦の国のだけど」
「そ、そうなんですか?で、でもなんでこんなとこで」
「任務だもの。草なら当たり前でしょ」
そう言われてナルトは「あっ」と手を叩いた。忍びにとって最大の武器は情報だ。その為、全国各地に草と呼ばれる忍が居を構え普通の人と変わらぬ生活をしながら情報収集をしているのだ。
「今の…“暁”に関する資料だけど。随分大変なものを追っているのね」
“暁”の言葉にナルトの体がピクンと反応する。
頭に浮かぶのはサスケの兄イタチの顔だ。
あいつが目の前に現れたからサスケは荒れた。そして里を出て行ってしまった。
今頃どうしているのだろうか?
大蛇丸の所に行ってしまったあいつのことを想うと今も胸が痛くなる。
「何か大切なものを失った?」
セトナはそう言って少なくなったグラスにウーロン茶を継ぎ足す。
「別に失くしてねえってばよ」
そう失くしてなんかいないとナルトは思った。絶対に取り返してみせると心に決めたのだ。大蛇丸にもイタチにもサスケは渡さない。その為に強くなる。なってみせるとナルトは心に誓った。
クスリとセトナが笑みを漏らす。
「何が可笑しいってばよ」
ハッと我に返ったナルトは頬を赤く染めた。
サスケのことを考え出すと周囲が見えなくなる。ここがどこで、今がどういう状況だったのかすっかり忘れていたのだ。
綺麗な黒髪の彼女はあいつじゃない。
他の誰もいらない。
「俺、帰る」
ナルトがそう言うとセトナは「そうね」と呟いた。
「そうした方が良いわ。坊やにはとっても大切な人がいるみたいだから」
セトナは指を一本、ナルトの唇に押し当てた。
「その人の為にとっておきなさい」
ナルトは「何を?」とは聞かなかった。何となくセトナの言うことが分かった気がして。
忍びならこういうことも大事なんだとは思うけれど。
今は余裕なんてなくて良い。
我武者羅でも良いから強さを得たい。
「うん。ありがとうってばよ」
ナルトはセトナに礼を言うと店を飛び出した。
後ろで自来也が何か言っていたが気にしない。
外に出ると火照った体にひんやりとした風がとても心地よかった。
「やっぱり俺にはまだ早いってばよ」
子供で良いから今は大切な一人を想っていたい。
ナルトは固まった体を解すように両手を夜の空に向け背伸びした。
今頃、サスケもこの空を見上げているだろうか?
瞬く星が舞う夜の空は遠いどこかにいるサスケに繋がっているような気がした。
−END−
なんか…ただ単にお姉さんに絡まれてしどろもどろになる
ナルトが見たかっただけなんです。純情さんなのでさぞかし
お姉さんの餌食になるだろうと。これで味を占めた自来也に
誘われるけどこの後はきっと行かないでしょう。
だってサスケの為にいろいろとっておかなくっちゃ(何を?)
それにしてもこれナルサスなんだろうか?うーん。サスケ名前
しか出てこないけど・・・ま、いっか。
ラストがやけに乙女ちっくになってしまいましたが・・・それも
ま、いっかということで(笑)