心地良い日の午後に



 ぽかぽかと暖かい春の陽気に誘われて、ナルトは大きな欠伸
を一つ零す。
 今日は任務もなく、修練場で一人で体を動かしていたのだが
、少し休憩のつもりで木陰に身を寄せ、横になったら思いのほ
か気持ちが良くて段々瞼が重くなってくる。
 今頃、自分以外のメンバーはどうしているだろう。
 サクラは買い物に行くと言っていた。
 カカシはいつもの本でも読んでいるのだろうか?
 サスケは……。
(やっぱどっかで修行してんのかな) 
 中忍試験があんな形で終わってから、サスケは妙に苛立って
いるみたいだった。
 任務の後も一人でさっさと帰ってしまうことが多い。
 別に一緒に修行したいとか思っているわけではないけれど…
…。
 一人だと出来ることも限られている。 
 サスケと一緒ならもっと別の修行ができるのに……。 
 そう思うと胸がキュウと締め付けられる。
 サスケは何も言わない。
 もっといろいろ話して欲しいと思うのは自分の我侭なのだろ
うか?
 ナルトは自分の胸をキュッと掴んで瞳を閉じた。


「何やってんだ、コイツは?」
 修練場の片隅でガアガアと大口を開けて眠っているナルトの
姿にサスケは呆れたように呟いた。
 家で巻物を読んでいるのにも飽きたので、少し体を動かそう
と思ってここに来たのに……予想外の先客にため息を零す。
 ナルトがここにいるのは不思議じゃない。
 何故なら自分同様、今日は任務がないからだ。
 家で巻物なんて読んでいるタイプではないからどこかで修行
しているだろうとは思っていたが……。
「このウスラトンカチ……」
 寝てどうする?
 サスケは苦々しく呟いてチッと舌を鳴らした。
 このまま見なかったことにして立ち去ろうか?
 普通ならこんなところで寝ていたら風邪を引くが、馬鹿はひ
かないというし大丈夫だろう。
 起こしてやる義理もない。
 だけど……何となく立ち去り難くて……。
 サスケは顔を歪めた。


 春の暖かな風が頬を掠める。
 大きな口を開けて眠っているナルトの隣で膝をたてて腰を下
ろし、サスケは青く澄んだ空を見上げた。
(何してんだ、俺は……)
 修行もせずにナルトの隣にただ座っているだけの自分に苦笑
いを浮かべる。
 こうしていると妙に穏やかな気分になる。
 何もかも忘れてしまえたら……楽になれるのだろうか?
「はっ、何を考えている」
 そんなこと出来るはずもないのに……馬鹿な事を思ってしま
ったのはあまりにもナルトが大口開けてマヌケ顔で寝てるせ
いだ。
 サスケはナルトの頬に触れた。 
 キュッと摘んでみるが、熟睡しているナルトが目覚める気配
はない。
「おい、おい」
 襲われたたらどうするんだ?と考えてサスケは自嘲した。
 この里は平和だ。
 こんな風に昼寝が出来るほどに。
 この平和を守りたいと思う反面、そぐわなさを感じる。
「ウスラトンカチ」
 両方の頬をムニュと摘む。
 それでも起きないナルトにサスケは目を細めた。


 風が少し冷たくなり、ナルトはクシュッとくしゃみをして目
を覚ました。
「あれ?」
 赤やけの空にナルトは目を大きく見開く。
「あああっ!」
 すっかり寝こけてしまったことに気づきナルトは大きな声を
上げ、ガバッと体を起こした。
「やっと目ぇ覚ましたか」
 そんなナルトに呆れた声が掛けられる。思いもしなかったそ
の声にナルトはビクッと体を跳ね上がらせた。
 声は自分のすぐ隣から聞こえてきた。
 おそるおそる顔を向けるとサスケがんーっと背伸びをしてい
た。
「サ、サスケ!な、何で!」
「別に。昼寝してただけだ」
 悪いか?と聞かれ言葉を詰まらせる。 
 別に悪くない。昼寝をしていたのは自分も同じだし……ただ
いつの間にサスケが隣に来て、いつから昼寝をしていたのか?
「えっと……」
「ま、たまには良いだろう。帰るぞウスラトンカチ」
 状況が飲み込めず目を白黒とさせているナルトを置いてサス
ケは立ち上がるとさっさと歩き出す。
「ちょ、ちょっと待てよ!サスケ!」
 ナルトは慌ててサスケの後を追った。
 呼ぶ声が聞こえている筈なのにサスケは何も答えない。
 ナルトはグッとサスケの肩を掴む。
 振り返ったサスケはナルトの顔を見て、笑いを堪えるように
頬を膨らませた。
「な、何だってばよ!」
「別に何でもねえよ。どうでも良いがお前あんまり大口開けて
昼寝すんなよ一応、忍だろ?」
 そう言われ、ナルトは顔を赤くする。
「一応じゃねえ!」
「だったら俺の気配くらい感じやがれ!」
 サスケはそう言うと肩に掛かったナルトの手を振り解き、再
び背を向けて歩き出す。
 ナルトは頬を膨らませグッと唇をかみ締めた。
 くやしいがあんな所で隣にサスケがいたのにも気がつかない
くらい熟睡していたのだ。

 だけどサスケだって……。
「あれ?でも何で?」
 サスケまであんな所で昼寝してたんだ?
 たまにはって?
「おーい、サスケ〜待てってばよ!」
 ナルトが手を振る。
 しかしサスケはチラリとナルトの方を振り返っただけでその
まま行ってしまった。


 家に戻ったナルトは鏡に映る自分の姿に拳を振るわせた。
「あんにゃろ……」
 ただ隣で昼寝していただけではなかったのだ。
 黒いペンで縁取られた口の周り。目にはありえない睫がばっ
ちり描かれている。
 両方の頬には渦巻きが、鼻の下には三本の髭と実にお間抜け
だ。
「くそっ」
 これを見てサスケは噴出しそうになっていたのだ。
「もう絶対、昼寝なんかしないってばよ!」
 ティッシュでゴシゴシ拭いながらナルトはそう心固く誓う。
 そういえばサスケはどのくらいの間、自分の隣にいたのだろ
う?
 どんな顔で落書きなんて……。
 喜々として自分の顔に落書きするサスケの顔を想像してナル
トは唇を尖らせる。。
「憶えてろよ」 
 今度、仕返ししてやる。
「俺の芸術、見せてやるってばよ!」
 ナルトはその時のサスケの顔を思い浮かべニヤリと口の端を
上げた。


−END−