01.


 一日の任務を終え、サスケは火影の館から家への道を歩いていた。
 赤く染まった空が広がっている。
 この所、めっきり暗くなるのが遅くなったと思う。
 七時を過ぎているというのにまだ明るい。
 こんな風に明るいうちに家に帰ることは珍しかった。
 いつもの道が違うもののように思えてサスケは苦笑いを浮かべる。
 公園の近くを通りかかると、子供達を呼ぶ母親の声が聞こえて来た。
 ふと、足を止める。
 視線を公園の方に向けると子供が親に手を引かれて帰る姿が見える。
 昔、良くこんな後姿を見送ったなとサスケは思った。
 そんな時、ナルトと目があって――――。
 慌てて目を背ける自分の姿がそこにあるような気がしてサスケは苦笑いを浮かべた。


 家の前までくると、向こうからやってくる何やら大きな箱を抱えた男の姿が見えた。
 箱からは物が溢れ、男の顔の前まで覆っている。
 男はヨロヨロとした足取りで歩いていた。
「何やってんだ?あいつ?」
 サスケは足を止める。
 よろけながら男はサスケの前を通り過ぎそうになった。
「おい」
 男の襟首を掴んで引き止める。
「どこへ行くんだ?」
 そんな大荷物を抱えて……。サスケがそう言うと男は足を止め、箱の脇から人懐っこい顔を出した。
 サスケを見て顔を輝かせる。
「サスケ!もう帰ってたのかよ!」
ナルトはそう言うと、息をついて箱を地面に置いた。
「ナルト、何やってんだ?」
今日は非番のはずだ。それなのに忍服に身を包み、大きな荷物を抱えているナルトにサスケは眉を寄せた。
「ん、ちょっとばあちゃんに頼まれてさ」
任務、任務と軽快に笑う。
「またあいつが逃げたしたんだってさ」
「あいつって?あいつか?」
「そ、あいつ。ちょうどみんな出払っててさ。俺ってばタイミング悪くばあちゃんに頼まれたたいやきを届けに行ったら行って来いってさ。人使い荒いってばよ」
ナルトはそう言ってプウッと頬を膨らませた。
ナルトのいうあいつとは大名のご夫人が買っている猫のことだ。ことあるごとに家出して、しょっちゅう捕獲の依頼がくる。大抵は下忍の仕事でナルトのような上忍が頼まれることはまずない。
 本当にたまたま居合わせてしまったのだろう。
 他の連中もそうだが、特に綱手は他愛のないことでナルトをよく使う。
 私的なことも多い。
 非番の上忍にたいやきを買いに行かせるくらいだ。
 可愛がっていると言えば聞こえが良いが、ようは使い勝手の良いパシリである。
「でもよ、五分で見つけたんだぜ」
「当たり前だ」
 上忍がそんなことで自慢するなと思いつつ、サスケはナルトの足元の大きな箱に目をやった。
「ところでそれは?」
 褒美に貰ったのか?と尋ねるとナルトは思いっきり首を振った。
「違うってばよ!そもそもこれを渡したいから取りに来いって呼び出されたんだって」
 ナルトはそう言って箱を持ち上げる。
「とりあえず中に入ろうぜ」
「ああ、それも?良いのか?」
 褒美でないなから、任務の預かりものか?
 それにしては箱の中に入っているものは綺麗にラッピングされているものが多い。
 まるでクリスマスのサンタの箱を連想させる。
 箱から溢れるくらいのプレゼントの山。
 真夏にサンタの真似事でもするのか?
 サスケが素朴な疑問を投げかけるとナルトは盛大に笑った。
「違う、違う!これは良いんだって」
 ヒイヒイと瞳に涙を浮かべてナルトはそう言った。
「これは全部サスケのなんだから」
「俺の?」
「そ、だって。今日はサスケの誕生日だろ?」
 だからこれはみんなからのサスケへのプレゼント。
「誕生日?」
「何だよ、忘れてたのかよ!」
 ナルトが不満げに口を尖らせる。
 そういえば今日は七月二十三日。サスケが生まれた日。
「ああ……」
 すっかり忘れていた。
「お前な……」
 ナルトが呆れたように呟く。
「とりあえず中に入ろうぜ」
「あ、ああ」
 促され、サスケは慌てて鍵を取り出し、自宅の扉を開いた。


「それにしても、すげえな」
 箱を覗き込み、ナルトが声を上げる。
 ナルトは色とりどりのラッピングに包まれた箱を一つ一つ取り出し、良く見えるように掲げた。
「なあなあ、開けてみろよ」
 瞳を輝かせてサスケを見る。
「おまえが開けたら良いだろ?」
「駄目だって、これってばみんなサスケへのプレゼントなんだから」
 でもそれってばちょっと面白くないけどさ、とナルトが口を尖らせる。
「別に誰が開けても一緒だろ?」
「違うの。ほら開けて開けて」
 表情をころころ変える。ナルトは興味津々といった雰囲気でサスケに包みを一つ手渡した。
 包みを解いて中身を取り出す。
「何だこれは?」
 半袖Tシャツだ。
 いや、それは良い。だが……問題は……。
「おお、いいじゃん!」
 ナルトが袖の部分をつまんで上に掲げる。
「俺の大好きなオレンジだってばよ。しかも気前良く同じもんが二枚も入ってるぜ」
 嬉しそうにそう言うナルトにサスケは眉を寄せた。
 オレンジのTシャツ。しかも二枚。どう考えてもサスケ宛とは思えない。
 嫌な予感がした。
「お、そっちはそっちは?」
 促され、次の包みを開く。
「すっげえ、こっちは限定味噌のカップヌードルだぜ!しかも二個!」
 次の包みは蛙のぬいぐるみが二つ。腹の所を押すとケロケロと鳴くやつだ。
 ナルトが思いっきり喜んでいる。
 次も、次も。
 開くプレゼントが皆、ナルトが喜びそうなものばかりで、揃って同じものが二つ入っている。
(何を考えてるんだ)
 クシャっとサスケは丸めた包装紙を握りつぶした。
「良かったな、サスケ!」
(嬉しかねえよ!)
 心の中でそう叫んだが嬉しそうなナルトの前にサスケは頬を引きつらせて笑うのが精一杯だった。
 なんとなく意図は読める。
 それもかなり悪質だが。
 最後の包みは小さかった。
 サスケは恐る恐るそれを開く。
 するとそこには真っ黒な小さなパンツが可愛くラッピングされ入っていた。
 ナルトが驚いてそれを広げる。
 横の部分が細い紐で、尻を覆うはずの布地が極端に少ない。いわゆるTバックの紐パンというやつだ。
 こんなものを送ってくる奴なんてたかが知れている。
「サイの奴!」
 ナルトも送り主が分かったのか、眉を吊り上らせた。
 去年の誕生日の仕返しだろうか?
 サスケは体から力が抜けていくのを感じた。
 ふと、包みの間に埋もれていたカードに気づく。
 小さなピンク色のカードを開くと綺麗な字で一言――――。
『二人で使ってください』
 やはり……サスケはガクリッとうな垂れる。
 大方、サスケに何を贈ったら良いのか分からず、ナルトの喜びそうなものを二セット用意したのだろう。
 使用する人物はともかく、これながら捨てられないから無駄にはならない。
 しかも……。
「なあ、なあ、サスケ。これ二つあるからさ」
「…全部持ってけ」
 サスケがそう言うとナルトが激しく首を横に振る。
「みんながサスケの為に買ったんだぞ!俺は一つで良い」
 きっぱりとそう言って笑うナルトにサスケは頭を抱えた。
 服や小物はナルトがペアだとはしゃいでサスケに使わせたがるに違いない。
 ナルトの性格を考えた巧妙な作戦だ。
「俺は良い」
「そんなこと言わずに一緒にさっ」
「ごめんだ」
 特にそのパンツは死んでも履かん!
 その夜―――部屋では一晩中、「受け取る、受け取らない」の論争が繰り広げられた。



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