an instant



 蝋燭に炎が点される。
 神妙な面持ちで揺れる炎を見つめて―――ナルトは小さく息を吐いた。
 ナルトの蝋燭は他の者のとは違う。
 大きくて長い。
 それだけではなく、蒼い炎が揺らめく。
 火影用に誂えられた蝋燭は長時間持つように工夫がされていた。
「火影様、そろそろお時間です」
 執務室の扉が開かれ、上忍が神妙な面持ちで炎を見つめてているナルトに声を掛けた。
「さあ、ナルト」
 補佐官であり、相談役でもあるサクラがナルトを促す。
 同様の役職に就いているシカマルはチラリとナルトを見ると小さく頷いて執務室を出て行った。
「ナルト?」
「ああ、すぐ行く。先に行ってくれってばよ」
 広場では、皆手に蝋燭を携え火影の登場を待っている。
 屋上から言葉を送った後、皆一様に黙祷を捧げるのだ。
 そう今日、10月10日は慰霊祭である。
 数年前、ペインにより壊滅的な状態に陥って以来、長らく中止されていた催しが今夜復活する。
 皆、黒いローブを羽織り、手に蝋燭を持つ。
 ここで黙祷を捧げた後、復興された慰霊碑へ移動し、蝋燭を捧げていくのだ。
 ナルトが生を受けた翌年より、行われてきた儀式。
「分かったわ」
 サクラが頷いて部屋を出て行く。
 パタンと扉が閉まる音にナルトはもう一度息を吐いた。
「いるんだろ?」
 静まり返った室内。部屋には誰もない。
 しかし、ナルトは問いかけた。
 するとヒュッと風の音がして、ナルトの直ぐ隣に影が跪く。
「何か?」
 獣の面をしているのは暗部の証である。
 恭しく問いかける男にナルトはそう呟いて口を尖らせた。
「面外せよ」
「しかし、今は……」
「その口調もやめろってばよ」
 子供のように頬を膨らませ、無理を言う主人に男は息を吐く。
 仕方ないと面を剥いだ男の顔には不服の文字が張り付いていた。
「お前な……みんな待ってんだろ?」
 その通りである。
 式典の時間まであと僅かしかない。
 屋上に上がるだけと移動は少ないが、こんな風に部下と遊んでいる暇などないはずだ。
「冷たいこというなよ、サスケ」
 ナルトが視線を落とす。
 手にもった蝋燭には炎が揺らめいていた。
 サスケは呆れ顔で黒いローブが肩からずれているのを直してやる。
「お前が望んだことだろ?」
 慰霊祭の復活はナルトが希望したことである。
 正直、それにはサスケだけではなくカカシやサクラも驚いた。
 慰霊祭はナルトの誕生日でもある。
 今までナルトは誕生日を誰かに祝って貰ったことなどなかった。
 記憶にあるのは冷たい視線。
 夜は家から出ないように厳命された。
 それはナルトの身を案じた三代目の配慮であったが、小さな頃はそれが分からずただ悲しかった記憶しかない。
 皆が歌いながら蝋燭を持って歩いていく。
 そんな様子を窓からこっそり眺める事しかできなかった。
「サクラは誕生日を祝おうとか言ってたんだろ?」
 火影の誕生日だ。祝い事を優先にしてはどうかという意見は火影自らに却下された。
「うん。確かに慰霊祭には嫌な思い出しかないけどよ……」
 ナルトが呟く。
「でも変えて行きたいんだ」
 孤独でいつも一人だった自分。だけど今はたくさんの仲間がいる。
「それに俺にとっても父親の命日だからな」
 里を託し死んだ父親。
 会えないと思っていた父親にほんの一瞬だが会えたという奇跡を思い出す。
 彼から受け継いだ里を腹の中にいる九尾と共に守っていく為にも決してあの悲劇を忘れてはいけないのだ。
「そうか……」
 サスケが頷いて外した面を再び顔にのせようとする。
「あ、ちょっと待つってばよ」
 ナルトは慌ててそれを制止した。
「何だよ」
「まだ本題が終ってねえ」
「本題?」
「ああ、そうだってばよ」
 怪訝な顔をするサスケの腕を引いて自分に引き寄せる。
 体を密着させナルトは二人の間に蝋燭の炎を掲げた。
「祭りの前に父ちゃんに報告があるってばよ」
 炎に向かって語りかける。
「俺、こいつに決めたから。だから心配しないでくれってばよ」
「なっ」
 ナルトの突然の言葉にサスケは驚いたように目を見開く。
 そんなサスケにナルトはニッと笑う。
「ちゃんと父ちゃんに言ってなかったからな」
「お前……まさかこの為に慰霊祭やるって言い出したんじゃ……」
「ま、さか」
 違う、違うと首を振るがどうも怪しい。
 サスケが眉を寄せた瞬間、唇に温かな感触が過ぎった。
 ほんの一瞬、時間にして一秒足らずの口付け。
 呆然としているサスケにナルトが笑う。
「今日は殴んなよ!誕生日プレゼント、なっ」
 ナルトはそういうと蝋燭を持つ手とは反対の手を振って部屋を出て行く。

 まもなくして外が賑やかになる。
 ナルトが皆の前に姿を現したのだろう。
 サスケはそっと温もりの去った後の唇を指でなぞり、嘆息した。
「全く……」
 共に生きると決めて里に戻った。
 暗部として闇に生きることもナルトとならば――――。
「世話のやける」
 口元に笑みを浮かべ面をつける。
 外には無数の蝋燭の明かり。
 死者に捧ぐ祈りの言葉と共に黙祷が捧げられた。


−END−