Dilanより一部抜粋

 ズタズタに切り裂かれた布地をゆっくりと剥ぎ取って、白い肌に赤い線を残す傷に触れる。

大きな傷はないが、男たちに押さえつけられもがいたせいで、背中やら、肩に擦り傷がいくつもあった。

 報告を終え、ホテルの佐助の部屋に戻ると、鳴門は佐助を椅子に座らせた。自分も椅子を持ってきて、

佐助の隣に腰掛ける。そして軟膏を手に傷の手当を始める。

 しかし傷といっても軍人にとってこの程度の傷は傷とは呼べない。

 手当ての必要はないと言ったのだが、鳴門は承知しなかった。

 訓練中に傷を負うことなど日常茶飯事だ。擦り傷なら尚のこと。それなのに自分の隣に座る男は痛々しそう

に佐助の傷に指を這わせた。軟膏に濡れた指が傷口に触れる。

 こんな血も出ていないような、小さな傷でも触れるとピリピリとした痛みが走る。

「もう、良い。鳴門」

 これくらいの傷、わざわざ薬をつけるほどこともないさっきから言っているのに……。

「跡が残ったらどうすんだってばよ」

「別に良いだろ」

 軍人の肌が綺麗でどうする。佐助がそう言うと鳴門は口を尖らせた。

「そりゃ、俺だって傷いっぱいあるけどさ。俺が嫌なんだってばよ」

 佐助を守るのは鳴門の任務だった。

 擦り傷でも傷は傷。守りきれなかったと肩を怒らせて言う鳴門に佐助は息を吐いた。

「あのな……」

 今回は完全に佐助のミスだ。鳴門に何も言わず単独行動をして招いたもの。

「それ以上、言うな。俺が余計に情けなくなるだろうが」

「う…そんなつもりじゃ……」

 ゴメンと呟いて、シュンと項垂れる。

 怒ったり、落ち込んだり、本当に忙しい奴だ。鳴門を見ていると本当に飽きない。いつもその瞬間、その瞬間で

違う表情をしている。

 コロコロ変わるその仕草や表情に佐助は犬を思い描いてクスリと笑った。

 イメージとしては中型犬で金色の毛がフサフサした犬。

 佐助は鳴門の髪に手を伸ばし、硬そうに見えて柔らかいその毛を一房掴み上げた。

 引っ張られ顔を上げた鳴門は大きな青い瞳を見開いて、きょとんとした顔で首を傾けた。

「続き…するんじゃなかったのか?」

 そんな鳴門の顔に佐助はそう思わず呟いてしまい、ハッとした。これではまるで自分からねだっているみたいだ。

(違う、断じて違うぞ!)

 佐助は心の中で首を激しく左右に振った。

 鳴門が驚いたように自分を見ている。

「佐助…」

「べ、別にしたいとか、そんなんじゃ……」

 ない、と言い掛けて佐助は言葉を飲み込んだ。突然、引き寄せられ、鳴門の腕にギュッと包まれる。

「鳴門……」

「俺はしたいってばよ」

 佐助の耳元に鳴門がそう囁くように言った。

「鳴門」

 金色の髪が揺れ、青い瞳が細められる。その表情は先ほどまで子供っぽく口を尖らせていた鳴門とは別人のようで……。

 ドキンと胸が音を立てた。

(ドキンじゃねえだろ、俺…)

 思わずときめいてしまった自分に佐助は顔を赤らめる。

 ゆっくりと鳴門の唇が近づいて来て、佐助は瞳を閉じた。

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