| 銀の宝剣 本文より抜粋 サクラに引きずられてやってきたのは何のことはない火影の執務室だった。 それほど強引に連れて行かなくとも、任務終了の報告に絶対に足を運ぶ場所だ。 (何なんだ?) 放っておいてもこの部屋に来ていたものを、何を焦っている? 尋ねるとサクラは「そうね」と呟いた。 「ごめん。実はもう次の任務が入ってるの。それで私が呼びに来たのよ」 サクラはそう言うと、執務室の扉を一気に開く。 次の任務という言葉にサスケは顔を歪めた。 大きな任務の後、連続で任務が入るのは珍しい。里が荒れ、人材が足りなかった時ならいざ知らず、 しかも自分一人だけというのが腑に落ちない。 里抜け以降、ナルトのいない今、カカシが自分の監視忍だ。 カカシが同伴でない任務はほとんどない。 しかし、今回の任務は違うようだ。 サスケは鋭い眼差しを綱手に向けた。 そんなサスケの視線に綱手は動じる様子も無く、暢気にお茶を啜っている。 隣でシズネが苦笑いを浮かべていた。 「綱手様」 シズネの困ったような声に綱手はやれやれと息を漏らした。 「よう、サスケ。元気かい?」 「ええ。まあ」 「そうかい。そりゃ良かった。ところでお前に任務だ」 「それは急ぎの任務ですか?俺は今戻った所ですが」 別に任務に行くことが嫌な訳ではないが、忘れているのではないかと思われる綱手の態度に思わず呟いた。 「そんなこと言って言いのかい?」 しかし綱手は強気だ。 笑顔で机に肘をついて手の平に顎を乗せる。 「どういう意味でしょう?」 サスケはピクンと眉毛を上げ、綱手を見据えた。 三忍の中では一番感情の起伏が激しく、表情の読みやすい綱手だが、食えない相手には違いない。 相手の言わんとしていることを探りつつ、サスケは眉を寄せた。 「もうすぐ花の里で祭が行われる。花の里は知っているな?」 「ええ。確か女性の里長が統べる里でしたね」 花の里は火の国の端に位置する四方を山で囲まれた小さな里だ。 元々は小さな国だったが、今から五十年程前に火の国の属するようになった。 花と薬が有名で、昔から女性の比率が高い。 里の八割が女だと聞いている。 そのせいか、忍ばりの力を持つ警護団というのが存在するらしい。 花の里では三十年に一度、山の恵みに感謝して祝いの祭が開かれるという話を聞いたことがある。 「それが何か」 「ああ。その祭に私も木の葉の里の代表として列席することになっている」 「では、その警護という訳ですか?」 裏の警護が暗部が行うが、表にも数名警護の忍びを引き連れて行くのは木の葉の長ならば当たり前のことだ。 だがそのメンバーに自分が選ばれるとは思わなかった。 何せうちは一族はいろんな意味で有名だ。しかもどちらかといえば悪名の部類に入る。 綱手の計らいで不問に終ったが、一度は里抜けした身。 もちろん通常ならばの話だ。 「俺がですか?」 確認するように問いかけると、綱手は楽しそうに言った。 「そうお前」 「何故です?」 自分など連れて行かなくとももっと相応しい人間がいる。隣にいるシズネしかりだ。 チラリと視線をシズネに向ける。 シズネはその視線を感じ、肩を竦ませた。 「もう、綱手様。そんな意地悪言わないで本当の事を言ったらどうです?」 嘆き口調の付き人に綱手は楽しげに笑う。 「別に嘘なんか言ってないじゃないか」 「そうですけど……」 シズネは困った人だと眉を下ろした。 その隣でサクラも苦笑いを浮かべている。 「本当の事というと?」 警護の他に別の理由があると? しかもサスケがどうしても任務に行きたくなる理由が? そんなもの……一つしかない。 「ナルトに何か関係があるのですか?」 サスケが尋ねると綱手の瞳が挑むように向けられた。 「どうして、そう思う?」 「他にないでしょう」 通常ならありえない人物を連れて他国に行く理由。 綱手は昔からナルトを可愛がっていた。それは今も変わらない。 こんな子供のような顔をする時は大抵、ナルト絡みだ。 そのせいかナルトが消えてから綱手の笑みも少なくなった。 それが今は子供のようにキラキラした眼差しを向けている。 「流石だな」 綱手の言葉にサスケは「やはり」と心の中で呟く。 「実はその祭で神剣の舞が披露される」 「真剣?」 「いや、神の剣。神剣だ。花の里に昔から伝わる宝らしい。里の創設者である初代の意向で、 「それが……」 「ああ、おそらく」 ナルトが捜している五つの神具の一つ。 妖しの王を滅することのできる神の武器。 「どうしてそれが花の里に?」 「それは分からん。しかしそれがあるということは」 必ずナルトが現れる。 「なるほど」 サスケはニヤリと笑みを浮かべた。 綱手はサスケにナルトを捜させてやると言っているのだ。 もちろんサスケに異論はない。 今度こそナルトを捕まえる。 そして一発殴らないと気が済まない。 「分かりました。同行させて頂きます」 サスケは胸に右の拳を当て綱手に頭を下げた。 「そう言うと思ったよ」 綱手の口調はとても楽しそうだ。まるで興味のあるおもちゃを見せられた子供のようだと思う。 「では、うちはサスケ、春野サクラ、それから……」 言葉を途中で切って扉に視線を向ける。すると執務室の扉が開かれ、 「まさか……」 「ああ、花の里は女性上位だからな。今回はくの一がメインだ」 「なるほど」 確かに女ばかりの里で男は目立ってしまうし動きにくい。暗部も里の中で警護に就く者はくの一が選ばれるだろう。 「サクラ、ヒナタ、それにシズネ。今回はこのフォーマンセルで行く」 「「「「了解」」」」」 綱手の前に横一列に並んだ四人は声を揃えてそう言うと深く頷いた。 任務の内容は花の里に列席する火影の警護。 それから――――――――。 「それでだな、サスケ」 綱手が思い出したようにポンと手の平を叩いて言った。 「里長の住む花御殿は男性禁制だ」 「では、変化を?」 「いや、花の国での滞在期間は三日だが、場合によっては長くなるやもしれん」 「何故です?」 祭を見るだけなのではないのか? サスケは訝しげに綱手を見つめた。 「実はその祭で花の里の里長にある相談を受けていてな」 「相談ですか?」 綱手は頷くと手を前に出してぶら下げた。 「これが出るらしい」 その言葉にサスケは眉を上げた。サクラとヒナタは顔を見合わせゴクリと息を飲む。 「幽霊?バカな。そんなものが」 バカらしいと肩を上げるサスケにシズネが呟く。 「幽霊はいるわよ。私、見たことあるし」 「は?」 「昔から結構霊感があるのよ。でも普段はあえて見ないようにしてるんだけど」 そう呟くとシズネは自分を抱きしめるように両手を絡め、体を震わせた。その様子にヒナタも体を震わせる。 「まあ、妖怪がいるくらいだからね。幽霊がいたって不思議じゃないだろう。 幽霊は祭の為に剣が里の神殿から花屋敷に移動したと同時に神殿のすぐ脇にある山に出現した。 「花の里の記述によればその首なし三十年前の祭の際にも。更にその三十年前の祭にも現れたらしい」 「花の里が創立されて今年で百二十年でしたよね?」 三十年ごとに現れる首なし武者。 今回の任務には火影の護衛の他に首なし武者の謎を解明することが加わっているらしい。 相手が本当に幽霊であるのならば、管轄外だ。しかし、そうではなく幽霊と偽ってのものならばその者を始末するのが 「これは内密にとの依頼だったのでな」 「火影の護衛というのは非常に都合が良いと」 しかし、確かにそれはやっかいだ。祭が終ってすぐに里に戻れるとも限らない。 「その報酬にその神剣を借り受けることになっている」 どうだ!とばかりに言う綱手にサスケは目を見開く。 それは……。 「ナイスです。師匠!」 変わりに答えたのはサクラだった。 グーと何処かの師弟のように親指を立てる。綱手は愛弟子に口の端を挙げて答えた。 「でだ。本題だが」 クイッと顎でシズネに指示する。長年付き人をやってきたのは伊達ではない。今回の任務では立場的に隊長にあたるシズネが 「行きましょうか?」 「は?」 驚く間もなくシズネがサクラを呼ぶ。 するとすかさずサクラがサスケの腕を握った。 「何の真似だ!」 「良いから、良いから」 サクラは物凄く楽しげにそう言ってサスケを引っ張っていく。 どうやらサスケだけが知らなかったらしい。ヒナタが即座に執務室の隣の部屋に通じる扉を開いた。 そこは緊急事態に屋敷に戻ることのできない火影為に作られたいわゆる仮眠部屋だ。 「お、おい!」 シズネに背中を押され、サクラに腕を引っ張られてサスケはその部屋に足を向ける。 その様子を至極楽しげに綱手が見守っていた。 |