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昼食を取るために入った定食屋の店員はそう言って顔を歪ませた。 何でも昔、偉い賢者が修行の為に谷にある洞穴に篭ったらしい。 賢者はその後、十年ばかり谷から出てこなかった。 「何でもね。その時に神に授かった宝を洞穴に残したってね」 谷より戻った賢者は村人にそう伝えた。 当時、村は谷から吹く強風に作物が満足に育たず、苦難を強いられていた。 賢者はその宝がある限りこの村は守られると告げた。 「その言葉通り、谷から吹く強風が一日二回、朝と晩の決まった時間の数分だけになったんですよ」 村人はそのことを喜び、風の谷を聖なる谷だと言って敬った。 「その噂が高まって、谷の宝を探しに各国から人が集まって来たんですよ」 動揺する村人に賢者は冷静に言った。 宝は主以外を退ける。 選ばれていない者が幾ら探しても宝にたどり着くことはできない。 その言葉通り、宝を探し当てたものはいなかった。 「まあ、おかげで里は宝探しの名所として潤っているから賢者様様だね」 「へえ」 運ばれてきた丼をかきこみながらナルトは呟いた。 「でもその主が持ってったら拙いんじゃないのか?」 サスケがそう言って箸を置く。 主以外は……ということは賢者はいずれこの地に来るであろう選ばれた者の為に宝を置いていったことになる。 しかし店員は自信満々に言った。 「選ばれた者が宝を手に入れると谷には幸福の風が吹くんだってさ。だから大丈夫なんだって」 だから、村人達はあえて宝を探す者たちを止めようとはしないのだ。 店員から情報を得て、二人が向かった先は観光事務局という場所だった。 ここで谷にある宝の情報を得られるらしい。 「遊園地か何かと勘違いしてしまいそうだ」 サスケはそう苦々しく呟きながら観光事務局で貰った宝の地図を握り締めた。 「まあ、そう言うなよ。何か楽しいじゃん」 対照的にナルトは地図を片手に目を輝かせている。 「でももっと情報得るのに苦労すると思ったんだけどな」 着いてそうそう地図まで貰えるとは思わなかった。 「そうだな」 あまりにあっけなく手に入った情報に妙に納得のいかないものを感じ、サスケは息を吐いた。 「で、どうするんだ?」 情報は手に入れた。 だが、既に時は昼から夜に差し掛かろうとしている。 視界の悪い夜、未知の領域に臨むのは危険だ。 するとナルトは傾きつつある太陽に視線を向けた。 手で光を遮り、目を細める。 ナルトはよくこんな風に天を仰ぐ。昼は太陽に、夜は月に何かを尋ねているように思える。 実際、旅の途中でナルトは「月」という言葉を口にした。 月がまだだと言うから、今は進むべきではない。 そんなことを言って先に進むことを拒むことがあった。 「ナルト?」 サスケも空を見上げる。 ナルトの青い瞳が見詰めるもの。 しかし、サスケの目には何も見えない。そう思うと苛つきを感じた。 目の前にいるのに、遠くにいるような気がするのだ。 (馬鹿な) サスケは自嘲する。 ずっとナルトは自分を追いかけて来た。 それなのに、ナルトが遥か遠くにいるような錯覚に見舞われるなんて……。必死に手を伸ばしても届かない。 「おい」 声を掛けると、ナルトはハッとしたように顔を上げる。 「あ、おお。何だってばよ!」 口の端を上げて笑うナルトにサスケは顔を歪めた。 「行くぞ」 「え?」 クルリと背を向けて谷へ抜ける森へ向かう。 「サ、サスケ!もう夜……」 あと数刻もすれば日が落ちる。一晩泊まって、明日の方が良い。そんなことは普通に考えれば誰だってそう思うだろう。 ナルトはサスケを止めようと手を伸ばし途中で止めた。 胸騒を感じる。 呼んでいる。 何が? 何かが。 この森の向こう。自分を呼ぶ何かが聳え立つ切り立った岩の壁から聞こえてくるのだ。 遠のいていくサスケの後姿にナルトは息を呑み込んだ。 「ナルト?どうした?行くぞ」 着いてくる気配のないナルトにサスケは足を止め振り返る。 「あ、ああ」 ナルトは苦笑いを浮かべると頭を掻いた。 サスケも何かを感じたのかもしれない。 「よし、行くってばよ」 宝があるのは洞窟の中だと言う話だ。それならば昼だろうが、夜だろうがそう大差ない。 村に入ってすぐ、非常食の補給などはすませてあったので、特に問題はなかった。 谷にはいくつかの洞窟があった。 観光事務局で手渡された地図には洞窟の場所がいくつか書かれおり、大体の長さや特徴まで書き記されている。 何でも探検者達が村に戻った際に情報を提供してくれるらしい。 「つまり、どれも駄目だったってことだろ?」 「いや、そうでもない。洞窟の中は複雑化していて、くまなく中を探し終えたというわけでもないらしい」 森を抜け、岩山を昇りながら二人は地図を見ていた。 「でもな……」 ナルトはうーんと眉を寄せた。 「どれも違う気がするってばよ」 ここに書かれた洞窟。先ほどからいくつか目にしていたが入る気にはならなかった。サスケも同じで、何かが違うと訴えかけているよ 段々、日が傾き、茜色の空が広がっていく。 岩山から見る景色は絶景で、二人はその美しさに洞窟探しも忘れ息を呑んだ。 「すげえてっばよ」 「ああ。そうだな」 見事な茜色の美しい空。 眼下に広がる緑色の景色と相まって、今まで見たどの夕焼けよりも美しく感じられた。 二人一緒だからというのもある。 ナルトの手がサスケの手に触れる。 指先がそっと近づき、ためらうように触れるその手にサスケは僅かに頬を赤く染めた。ナルトの手が優しくサスケの手を包み込む。 「なんか嬉しいってばよ」 ナルトの言葉にサスケは無言で頷いた。 不意にナルトが「死んだ」と聞かされた日の事を思い出す。 宝珠を護る任務から帰って来なかったナルト。現場に散らばった人と認識できないほどの無残な遺体に小隊は全滅したと報告された。 (あの時は堪えたな) ナルトを失うことが自分にとって何よりも勝る苦痛なのだということに気づがついた。 あれから、ずっと追いかけて来た。 ナルトが自分を必死に追いかけてきた時間に比べればごく僅かな時間だ。だが、もうこの手を離すのは御免だとサスケは強く思った。 何があっても―――。 ずっとこうしていたい。そう思ったのはサスケだけではなかった。ナルトも繋いだ手の温もりに動けずにいる。 追い続けていた長い時間はこうして一緒にいる為の時間だったのだと思えた。 永遠に続けば良い。 そう思えるほど心地よい時間。 「一人で勝手に行くなよ」 そう言うとナルトがキョトンとした顔でサスケを見つめる。 「お前がそれを言うのかよ」 それはこちらの台詞だと言わんばかりのナルトにサスケはフンと鼻を鳴らした。 乾いた風が頬を擽り、二人は自嘲ぎみに笑った。 「さ、行くか」 「ああ」 妙にセンチメンタルになってしまったが、一緒にいればいつでも見ることができるのだ。 ナルトが名残惜しげに手を離し、照れくさそうに頬を指で掻く。 サスケは顔の火照りを隠すように背を向けた。 |