青銅の盾 本文より抜粋

 その夜、サスケは一人街へ出かけた。

 特に目的があるわけではない。

 ただ寝付けなかったのだ。

 気晴らしに外へ出ようを思った。

 隣にはシカマルが眠っている。

 サスケは起こさないよう注意してカカシの家を出た。

 住宅街を抜け、駅のある方へ足を進めると深夜だというのに人の笑い声が聞こえてくる。

 どうやら酔っ払いのようだ。

 管を巻いて地面に寝転がっている男の姿を見てサスケは顔を歪めた。

 その隣では同じような服を着た男達が真っ赤な顔で肩を組んで歌を口ずさんでいる。

 見苦しいとしかいえない光景にサスケは嘆息しつつ、目を合わせないようにその横をすり抜けた。

 昼間よりは少ないが車が行き交う道路を横断する。

 本当に目的などなかった。

 だが自然と足がナルトのいる病院の方角へ向かっていることにサスケは苦笑いを浮かべる。

 今頃、ナルトは眠っているだろう。

 行っても仕方がないのに足は彼の元へと向かっている。

「変な所だな」

 ここは自分の知る世界とはまるで違う。

 夜だというのにこの街は明るい。

 道を照らす外灯だけではなく、車のライトや深夜にも関わらず開いている店の明かり。

 人の姿もちらほら見掛ける。

 その多くが酔っ払いだが、中には足早に家路を急ぐ人の姿もある。

 木の葉の里の夜はもっと静かだ。

 これほど明るくもない。

 改めてここは自分の知らない場所なのだとサスケは思った。

「ナルト」

 呟くと胸がキュッと締め付けられるように痛む。

「俺は……

 ここにいる。そう呟いてサスケはキュッと拳を握り締めた。

 そうこうしている間にサスケはナルトのいる病院の前についた。

 サスケは足を止め、ナルトの病室の方を仰ぎ見て息をつく。

 流石にこの時間ではナルトに会うことはできない。

 そんなことは最初から分かっていたことだ。

(何を感傷に浸っている)

 明日、山で何らかのヒントを見つけて自分の世界に帰る。

 この世界のナルトと接することが少なかったのは残念だったが、いつまでもこの世界にはいられない。

 五つの神具を見つけ出す。

 そしてナルトを里へ連れ戻す。

 以前とは逆の立場にサスケは顔を歪めた。

 ずっと兄を追い続けた自分と必死にサスケを追いかけてきたナルト。

 今は自分がナルトを追っている。

 追うのは辛い。

 手を伸ばしてもすり抜けていく。そんな思いはもう味わいたくなかった。

 戻るんだ。

 きっとナルトは自分を探している。

 愛しく思う青い瞳を思い出すと胸が痛んだ。

(あいつは……

 カカシの家にあった青銅の盾の欠片。あれを見た瞬間、サスケは分かったような気がした。

 青銅の盾は自分達を試している。

 欠片を見つけ、持ち帰ることができるかどうか。

 頭の中で問題点を整理する。

 別世界の自分とナルト。

 ナルトの胸の刻印。

 青銅の盾の欠片。

 未知の洞窟。

 そこへ行けば全ての謎が解けるのだろうか?

 サスケはポケットから小さくなった銀の宝剣を取り出し見つめた。宝剣は月の光の下、美しく輝いていた。

 キュッとそれを握り締めサスケは病院に背を向けた。

 最初から会えるとは思っていなかった。

 会いたいと願ったわけではない。

 ここに来たのはただ何となくなのだ。

 本当に何となく、足がこちらに向いただけ……

 それなのに背を向けた瞬間、手の中の宝剣が熱帯びて輝かしい光を放った。

「何だ?」

 サスケはそれを取り出す。一見しておもちゃにしか見えない小指くらいの大きさの小さな剣。

 光を放ち熱を帯びているそれにサスケは眉を寄せた。

「これは?」

 何かを訴えているような光。

「サスケ!」

 刹那、背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 サスケは信じられない思いで振り返った。

 

「ナルト……

 

 白いパジャマ姿のナルトが柵にしがみつく。

「どうして?」

 見れば足元はスリッパのままだ。

 急いで駆けて来たのだろう、息が荒い。肩で息をするナルトにサスケは慌てて駆け寄った。

「大丈夫か」

 丸めた背中を摩ろうと柵の中に手を差し伸べる。するとナルトの手がサスケの手首を掴んだ。

「ナルト?」

 驚きに目を丸くするサスケにナルトが顔を上げる。その瞳の鋭さにサスケは一瞬たじろいだ。

「ナルト?」

「サスケが来たって思ったんだってばよ」

 そう言ってサスケを掴む手に力を加える。

 強い力で握り締められ、サスケは顔を歪めた。

「思った?」

 ナルトが頷く。

「感じたっての方が正解かもしれねえ。ここに来るって……分かったんだ」

「分かったってお前……

「分かんねえけど、分かったんだってばよ」

 ナルトは瞳を伏せそう呟いた。

「でもどうしたんだ?」

 会いに来たわけじゃないんだろ?とナルトの瞳がそう問いかける。

 確かに今は面会時間ではないし、こんな夜遅くに病院を訪ねた所で入院患者に会えるわけがない。

 他に目的があったのだろうと思うのが普通だ。

 サスケは言葉に詰まった。

 別に意味などない。

 ここへ来たのは無意識のようなものだ。

 分からないことが多すぎて不安定な心が自分をここへ導いた。

「ただの散歩だ」

 そう答えるとナルトが首を横に振る。

「嘘だね」

 きっぱりとした口調で言ってサスケの腕を更に強く握った。

 病人とは思えない強い力にサスケは眉を寄せる。

「何か言いたいことがあるんだろ?」

 言わなくてはいけないこと。だけど言いたくないからサスケはこんな時間に来たのだ。ナルトに会わずにすむように……

「どこへ行くんだよ」

 そう言われサスケは瞳を大きく見開いた。青い瞳がサスケの心を見透かすように真っ直ぐに向けられている。

「お前までいなくなるのかよ」

 声が震え、離すまいとサスケを掴むナルトの手も震えた。

「サスケ」

 切ない思いを吐き出すように呟くナルトの声にサスケの胸が締め付けられるように痛んだ。

「ナルト」

「俺も行く」

「そんなことできるわけねえだろう!」

 気持ちは分からなくはない。だが、これから何が待ち受けているのか分からないのだ。何の力もない。

 病人のナルトを連れて行くわけにはいかない。

「サスケ、頼む!俺、あいつに謝らなきゃいけないんだ!」

 首を振るサスケにナルトは縋りつくように声を上げた。

「あいつ?謝る?」

 ナルトの不明瞭な表現にサスケは眉を寄せた。

 真剣に自分を見つめる青い瞳は今にも涙が溢れそうに潤んでいる。

「サスケに」

 苦々しく呟いてナルトは唇を噛み締めた。

「どうして?」

 サスケの声が震える。

 まだナルトに自分が違う世界から来たことを告げてはいないのだ。

 それは余りに接する時間が短かったからに他ならないのだが……

 ナルトの瞳に映る自分の姿にサスケは畏怖を感じた。

(何を恐れている)

 ドクドクと心臓が音を立て、じわりと背中に汗がにじみ出る。

「ナルトお前……

「あんたは違う。俺の知ってるサスケじゃねえ。そうだろ!」

 確かに入れ替わった時、傍にはナルトがいた。

 ナルトはこの世界のサスケと別世界の自分が入れ替わったのを見ていたのだ。

 しかし疑問はある。

 この体はサスケのものではないのだ。

 同じ顔、同じ声だが年齢が違う。それにこの体には修行で負った細かな傷など一切なかった。

 忍びではない。

 普通の高校生であるサスケの肉体。

 状況から考えて入れ替わったのは魂だけと判断していた。

 精神だけが入れ替わったというのにナルトはどうして気づいたのか?

「何故……

「俺のせいだから」

 そう呟いてナルトは手の力を緩めた。


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