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CHANGE
05.
最初は良かった。
サスケは優しかったし、ずっと一緒に居られるのも嬉しかった。
だけど……。
薄いブルーのラグが敷かれた床にダランと足を伸ばして寝転がりナルトは呟いた。
「退屈だってばよ……」
未来に来て一日が過ぎていた。
サスケの記憶によれば今日の夜がタイムリミットらしい。
それなのに折角の未来を堪能することもできない。
使い慣れた部屋だけど、雰囲気の随分と異なった部屋でサスケと二人きり。手を伸ばせば届く距離だけど、机に座り書類を黙々と片付けているサスケの後ろ姿が妙に遠く感じる。
部屋を出てみたいと言ったが、過去の者に未来を見せることはできないと即座に却下された。
「チェンジして元の時間に戻るまでお前にはこの部屋の中で過ごして貰う」
その間、監視も兼ねてサスケもこの部屋にいるのだと言われて、ナルトは早々に脱走を諦めた。
同じ時代のサスケからでも難しいのに、上忍のサスケにこんなに狭い部屋で監視されていては逃げ出すのは不可能だ。
それでもあまりに退屈でサスケが食事の用意をしている隙にトイレと偽って試みてはみたのだが……部屋から半歩も出ないうちに捕まった。
「なあ……」
昼食の後、ずっとナルトに背を向けて書類に向かっているサスケに声を掛ける。
「何でそんなに仕事してるんだってばよ?」
「ああ?」
するとサスケが凄い形相で振り返ったのでナルトはビクンと体を竦ませた。
(ちょ、超怖ぇ)
殺気を漲らせたサスケの鋭い視線にナルトは思わず後に体を引いた。
「な…何だってばよ」
「別に。お前だって任務くらいするだろ」
サスケはそんなナルトの様子にハアッと息を吐いて、皺を寄せた眉間に右手の人差し指を押し当てた。
「そりゃ。するってばよ。でもよ……」
忍の任務は基本的に肉体労働だ。
そりゃ隊長になれば報告書などの書類提出はあるが、目の前のサスケのように大量の書類を抱えるなんてことはまずない。
事務官になれば別だが、サスケがそんなものになるとは思えなかった。
自分と同じで机に向かってひたすら書類と睨めっこなんてガラじゃない。
「書類……カカシ先生でもそんなことしてるの見たことないってばよ。お前、今何やってんの?」
上忍だと聞いた。
だけど、そんなに書類処理が必要になる上忍なんて……心当たりは一つしかない。
まさか、という思いが胸に湧く。
(聞くのが怖い)
もし本当に今思った通りなら、自分はどうするだろう。
だけど、もしサスケがそうならこんな所で自分のお守をしているのも変な話だ。
「ああ。これか」
サスケは書類にチラリと視線を向けて呟いた。
「悪いな。もう直ぐ片付くからもうちょっと待ってくれ」
「いや、それは良いけどよ」
そんなことより大量の書類を処理していることが気になるのだが……。
「もしかして…お前ってば……今…」
恐る恐る尋ねるとサスケはピクンと眉を上げた。
「これは本来、俺の仕事じゃねえよ」
ナルトの気持ちを察してサスケがそう言った。
「え?」
「ちょっとこれを処理する奴が別の用件で出てな。頼まれもんだ。上忍だが生徒も持ってないし、基本的はお前らと同じだ」
同じ。火影に振り分けられた任務をこなす忍。
それは彼が自分の思ったような役職に就いたわけではないということを示していた。
だけどサスケにこれだけの書類と頼んだ奴って?
サスケは自分に厳しいが、そのわりに他人には優しい。
だが、これほどの量の書類を肩代わりしてやるほど親しい友人は限られている。
(……もしかして、俺のか?でも俺が書類整理なんて考えられねえ)
火影になればそんな事も言えないのだろうが、今の自分にはまだ大量の書類に囲まれる未来なんて想像できなかった。
(そうだってばよ。俺がそう簡単にサスケに火影の座を渡すなんて考えられないってばよ)
こんな書類を抱えこみそうな奴を思い浮かべてナルトはいつも面倒くさそうにしている幼馴染の顔を思い浮かべた。
シカマルなら書類に囲まれている未来も納得できる。
頭の良い奴だから十年後、作戦室とか事務経理とかそういう所に配属されそうだ。
妙に納得してナルトはうんうんと自分に言い聞かせるように頷いた。
そんなナルトの様子にサスケは顔を引きつらせる。
良いように解釈してくれたようなので深く突っ込まないことにした。
「で、それが終っても俺ってば出られないわけ?」
折角十年後に来たのにサスケ以外の誰にも会っていない。
きっと綺麗になっているだろうサクラやあんまり変わってなさそうなカカシに会ってみたいのだが……。
「駄目だ」
「ちぇっ」
即座に却下されナルトは舌を出した。
「じゃあさ、ここで出来る修行をしようってばよ」
「ここでか?」
サスケはグルッと部屋を見渡して怪訝な顔をした。
「この広さで出来ることなんて印の確認くらいだぞ」
修行といっても狭い部屋の中で出来ることなんて限られている。せいぜい巻物を読んで印の確認をするくらいだ。
「それでも良いってばよ。なあ、一緒にやろうぜ」
ナルトの顔に退屈と大きな文字が浮き出ている。
確かに上忍になってさえジッとしているのが苦手なナルトに病気でもないのに一日中家にいろというのは酷かもしれない。
だが過去のナルトに未来の彼のことを知られるわけにはいかないのだ。
「分った。家を破壊するなよ」
あくまでも印の確認だけだ。術にもよるが、本当に攻撃的な術を発動なんてさせたら即座に家は破壊されバラバラになるだろう。
それは困る。
サスケの言葉にナルトは顔を輝かせ頷いた。
「じゃあ、そこの棚に巻物を入れてある。適当に物色して待ってろ」
そう言ってサスケはベッドの隣にある大きな本棚の一番下の段を指差した。淡いヘベージュの木で作られた本棚は一番下の段だけが引き出しになっており、その中に巻物が数多く納められていた。
「了解!」
ナルトは声を弾ませながらそう答えて、引き出しの中を覗きこむ。
巻物を物色し始めたのを横目でチラリと見て、サスケは再び体を机に向かわせた。
ペンを握り、書類に集中しようと眉を寄せる。
刹那――――トントンと扉をノックする音が狭い部屋に響き渡った。
「何だ?」
サスケが眉間に皺を寄せる。
気配で外にいる者が誰だか分る。
だが、一体彼が何のようなのか?
サスケは腰を上げると玄関に向かった。
ドアノブに手を掛け相手に問い掛ける。
「おい」
相手を呼べば、「おう」と暢気な声が返って来た。
聞き覚えのある声にナルトは驚いたように目を丸くする。
「この声……」
ナルトの呟きにサスケはチッと舌を打った。
彼には今の状況をキチンと伝えてある。だから充分承知しているハズだと思うのだが……。
サスケは大きく息を吐いて、ゆっくりと扉を開いた。
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