CHANGE

06.


扉を開くと見慣れた顔が「よっ」と手を上げて立っていた。
 予想通りの相手にサスケは眉間に皺を寄せる。
「どういうつもりだ」
 静かに問いかければ、シカマルは罰悪げに笑みを引きつらせた。
「そう怒るなって」
 チラリと部屋の奥に視線を向けてシカマルがサスケの肩をポンと叩く。
「ああ、シカマル!」
 様子を伺っていたナルトがシカマルの姿を見て大きな声を上げた。
 幾分小さな黄色頭が駆けてくる。
 刹那、険しい顔をするサスケにシカマルは小さな声で囁いた。
「面倒なことになった」
「だろうな」
 今の状況を知って尚、サスケを訪ねてきたのだ、それなりの事があったのだろう。
「とりあえず至急、来てくれ」
「来てくれって……」
 サスケの呟きに反応したのはナルトだった。
「何、何?どっか出かけんのか?」
 外に出られるのでは?と瞳をキラキラと輝かせてシカマルに問いかける。
 その言葉にサスケはチッと舌を打った。
「言っておくが俺だけだぞ。その間はシカマルが……」
「悪りぃ。そりゃ出来ねえんだ」
 状況を知るシカマルが交代要員として派遣されてきたのだろうとばかり思っていたサスケは思いもよらない言葉に「は?」と口を大きく開いた。
 それじゃあ、一体シカマルは何の為に来たのか?
 本当にただの伝令だとしたら役立たずもいいところだ、とサスケは問い詰める視線をシカマルに向けた。
「本当は預かってやりてぇんだけどな」
 サスケの心を察してシカマルが呟く。
「で、仕方ねえから連れて来いってよ」
「何?」
「此処に一人で置いとくよりゃ良いだろ?」
 シカマルの言葉にサスケは「良いわけあるか!」と叫びそうになるのをグッと堪えた。
 チラリと視線をナルトに向ければ顔を輝かせている。
「どこへ行くんだってばよ!」
 完全に行く気満々のナルトにサスケはガクリと肩を落とした。
 こうなったらもう駄目だ。何が何でもついて来るだろう。
 シカマルがナルトを連れて来ても良いと言う場所。正確には状況を知っている者ばかりなので連れて来ても特別驚く者がいない場所というだけで、支障がないわけでは全くないのだが……。
 致し方ないとサスケは腹を括った。
「火影の所だ」
「へ?」
「だから火影の所だ」
 だが、ナルトが火影に会うわけではない。
 何故なら今、火影は――――。
「とりあえず行くか。詳しいことは向こうで話す」
 サスケは小さく頷いた。
 ナルトが大きな声で「やったー」と叫んで拳を突き下げる。
 部屋の中でジッとしているのが余程退屈だったのだろう。
 チラリと時計に目を向ければすでに一時を少し過ぎている。
 目の前のナルトがこの未来にいるのはあと僅かだ。
 できればそれまでここでジッとしていて欲しかったのだが仕方がない。あとは過去に戻る前に問題を起こさないよう祈るのみ。
 (思いっきり不安だ)
 簡単に身づくろいし、出来上がった書類を袋に詰め込んで、サスケはナルトを伴い部屋を出た。



「おおっ」
 自分の知るその場所と全く変わっていない火影執務室のある建物の中でナルトは物珍しげに周囲をキョロキョロを見回しながら歩いていた。
「おい、早く来い!」
 イライラとした口調でサスケが呼びかける。
「おう」
 一方、ナルトはかなりウキウキしていた。
 十年後の未来。
 サスケもシカマルもそれほど大きく変わっているわけではなかったが、やはり大人になったという印象を受けた。背も自分が知る彼らよりは高いし、何より物腰が違う。
 だけど細かい所が変わっていないのは嬉しい。
 シカマルもすぐに彼だと分かった。
 他のみんなはどうなっているのだろう?
 正直、一番気になるのは未来の自分なのだが、残念ながら入れ替わっている為、会う事はできない。
 それは仕方ないとしても、サクラやカカシの十年後も知りたい。
(サクラちゃんは美人になってるってばよ)
 十年後の二人の姿を頭に思い描き、笑みを浮かべる。
「おい、ナルト。顔、もうちょっと引き締めろ」
 そう言われても、ニヤケてしまうのだから仕方ない。
「なあ、サスケ。サクラちゃんはさあ……」
 サクラの居所を聞こうと口を開いた瞬間、前を歩いていたサスケが急に立ち止まり、ナルトは勢い余ってその背中に顔から突っ込んだ。
「おい、急に立ち止まんなってばよ!」
 打ち付けた鼻を押さえつつ声を上げる。
 なんなナルトにサスケは呆れ顔で目を細めた。
「お前なあ……」
「何だよ」
「……まあ、良い。着いたぞ」
 そう言ってサスケが親指でクイッと示した先は何でもない部屋だった。
 火影がいる部屋からは数階下で随分と離れている。
「ここは?」
「緊急時の仮眠室だ。今は使用されていないから安心しろ」
 サスケが扉を開く。確かに今は使用者がいないのだろう。畳六畳ほどの部屋は簡易用の二段ベットが置かれていたがそれ以外何もなく、ガランとしていた。
「ここで待ってろ」
「ええっ!」
 声を上げずにはいられない。
 こんな何にもない部屋で一人でいたら退屈で死んでしまいそうだ。
 それだったら家で待っていた方がマシだったと呟くとギロリとサスケに睨まれた。
「部屋にはトイレもあるし不便はないだろう」
 クイッと部屋の中にある扉を顎で指す。あそこがトイレのようだ。だがそれではますますこの部屋から一歩も出るなと言っているようなもの。
 不満を露にしているナルトにサスケはハアッとため息を零した。
「ほら」
 仕方ないとばかりにサスケは一本の巻物をナルトに手渡した
「これでも読んで修行してろ」
「げっ」 
 渡された巻物の題を見てナルトは声を上げた。
『縄抜けの術』
 未だにナルトが不得意にしている術だ。
「嫌味かよ」
「当たり前だ。そろそろそれくらいの術憶えろ!」
 サスケはフンッと声を上げて腰に拳を当てて体を仰け反らせた。
「すっげぇ、ムカツクってばよ」
 だが確かにサスケの言う事も尤もなのでナルトはグッとそれ以上の言葉を飲み込んだ。
「ま、それほど時間も掛かんねえし辛抱して待ってろって」
 存在をすっかり忘れられていたシカマルがやれやれと呟く。
 ナルトは拗ねたように口を尖らしたが、諦めたように二人に背を向けて部屋に足を踏み入れた。
 パタンと扉が閉められる。
 二人が遠ざかる気配を感じて、ナルトは巻物をベットの上に放り投げた。
「誰がこんなもんすっかってんだよ」
 折角、来たんだ。
 するべき事はただ一つとばかりニタリと頬を緩ませる。
 扉に手を掛けるとゆっくりとドアノブを回す。だが、当然のごとく扉は開かない。
「鍵掛けてやがる」
 予想通りというか……なんと言うか……。
 だが、これで諦める自分ではない。
 部屋を見渡す。
 大きな窓から明るい日の光が差し込んでいた。
「扉が駄目なら窓からってな」
 忍に高さは関係ない。普通の建物の三階相当にあたる高さだが、チャクラを使って壁を歩けばやすやすと移動できる。
 ナルトはガラスの窓に近づいて、内鍵を外す。そして思いっきり横にスライドさせようとした。
 だが、しかし――――窓はビクともしない。
「あれ?」
 見た感じでは窓に外から鍵が掛かっているという訳でもなさそうなのだが……。
「結界?」
 あの短時間の間に?それともあらかじめシカマルが結界を張って用意していたのか?いずれにしても部屋には結界が張り巡らされており、抜け出せないようになっていた。
「おいおいおい。俺は囚人かよ」
これじゃ軟禁ではなく完全に監禁だ。サスケの用事が終わるまで、本当に一歩もこの部屋から出さない気らしい。
「そりゃないってばよ」
 ナルトは情けない声を上げて床にヘタリこんだ。



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