■プロミス■ACT.2

「で、どういうことなんだ?」

 怒りを露にそ尋ねれば少年は捨てられた子犬のような眼差しをカミーユに向ける。

「俺は言われてすぐ呼びに来たんだって。カミーユが気づかなかっただけで」

 どうやらジュドーは随分前からハッチの前に居たようだ。真剣な眼差しをモニターに向けているカミーユ

に声を掛けるタイミングを失ってしまったらしい。

「邪魔しちゃ悪いと思ったしさ」

「別にそんなの」

 モニターに全く集中していなかったのだから。

 しかしそうも言えず、カミーユは苦笑いを浮かべた。

「それにしても、何で隠れなきゃいけなかったんだ?」

 と、言うことはジュドーは二人が何故探しに来たのか知っていて隠れたのか?

 なるほど余裕があったハズだ、とカミーユは呆れ顔をジュドーに向ける。

「まあ。それはちょっとした悪戯じゃん」

 いけしゃあしゃあと言う少年の頭上にカミーユは怒りの拳を落とした。

「とにかく、行くぞ」

 何の差し入れかは分からないが、これ以上、目上の人間を待たせるわけには行かない。

 扉の方へ足を向けた瞬間、ジュドーがカミーユの腕を掴んだ。

「またっ、お前はっ」と、声を上げる。

 何のつもりか問いただそうとした瞬間、唇に温もりを感じる。

 それがジュドーの唇であることに気づいて、カミーユは目を見開いた。

 唇は一瞬で離れ――――

 頬を染めたジュドーがヘヘッと笑みを浮かべた。

「さっきのさ」

「え?」

 瞬きを何度も繰り返し、カミーユはジュドーを見つめた。

「指きりっての」

「ああ……

「俺は指きりできるよ」

「え?」

「何があってもカミーユさんの傍にいるから」 

 そう言うと、ジュドーはカミーユを置いて走り出す。

 残されたカミーユは少しの間動けず、去っていく元気な後ろ姿を呆然と見送った。

 今、ジュドーは何て言った?

 傍にいる?

 指きり?

 約束?

 

 頭の中に指きりの歌が鳴り響く。

 

 指きりげんまん

 嘘ついたら

 針千本飲ます

 指切った

 

「何考えてるんだ?あいつ?」

 全くもって理解できない。

「約束なんて……何の確証もないのに……

 だけど頬が火照るのはどうしてだろう。

「バカだよな。アイツ」

 本当に大バカだ。

 理解に苦しむ。

 だけど、嫌じゃないと思っている自分はもっと理解できない。

 カミーユは自身の青緑色の髪に指を絡ませ、ギュッと握り締めた。

 

 

 食堂に入るとパーンと甲高い音が響き、カミーユは目を丸くする。

「何だ」

 動揺も露にそう呟けば、入り口近くにいたアムロがポンとカミーユの肩を叩いた。

 中央には白くて丸いケーキが置かれている。

「差し入れでね、バースデーケーキを貰ったんだ」

 そう言ってアムロが視線をベルトーチカに向けた。

 どうやらこれは彼女からの差し入れらしい。

「べ、別にあなたの為じゃないんだからね!」

 彼女はそう言うと頬を赤く染めプイっと横を向く。

「私はアムロの……

 その言葉にカミーユはえっ、と顔を横に向ける。

 アムロは恥ずかしそうに頬を染めて頷いた。

「3日だったんだ」

「そうだったんですか!」

 驚きに思わずカミーユは声を上げた。アムロは恥ずかしそうに鼻の頭を指で掻いて頬を染める。

「ああ。それでね。今日は君の誕生日だって聞いたから。折角だし三人のお祝いをしようってことになって

ね」

「三人ですか?」

 アムロと自分は分かる。あと、もう一人は?とカミーユが首を傾けた。

 ジュドーの誕生日は先月だったし、ファアも違う。

 他に誰が?と、視線で問いかけると、アムロの顎がある人を指す。

 指された人物に視線を向けてカミーユは「あっ」と声を上げた。

「11月17日なんだってさ」

「そうなんですか!」

 二人ともそんなに自分の誕生日と近かったなんて……。 

 カミーユは驚きの眼差しをクワトロに向けた。

「まあ、そういうわけだから」

 アムロがそう呟いた瞬間、ファアが入り口にいるカミーユの腕を掴んだ。

 そのまま輪の中心へと引っ張って行かれる。

「改めてハッピー・バースデーカミーユ!」

 ケーキのすぐ脇にいたプルが元気良くそう言って残っていたクラッカーをパンと鳴らした。

 

 

 

 食堂の隅でジュドーがカットされたケーキをつついていた。

 いつもなら輪の中心にいるのに、今日は隠れるように隅っこにいる。

 カミーユはそっと輪から抜け出してジュドーの隣に腰を下ろした。

「まさかと思うが……

 ケーキを口に運びながらそう呟けば、ジュドーがピクンと体を揺らす。

「さっきのが誕生日プレゼントだとか言うんじゃないだろうな」

 ずっと傍にいるという約束。

 ジュドーの緑の瞳がカミーユを見つめる。

「だって、俺、知らなかったから何にも用意してないし」

「バカ」

「だから、俺がプレゼントってダメ?」

「ダメに決まってんだろ」

 全く、ろくなことを考えないやつだ、とカミーユはため息を零した。

「約束なんて簡単に口にすんなよ」

「別に簡単じゃないよ」

「あのな……

「だから指きりなんだって」

「はあ?」

「約束やぶったら指切って良いよ」

 破らないけどねとジュドーが呟いた。

 この場合の切るは子供が良くする指で指と指の間を切るというものではない。

 なるほど怖い歌だと納得してカミーユはケーキを一欠けら口に放り込んだ。

 口の中に甘味が広がる。

 甘すぎるくらいだ。

「本当、お前ってバカ」

 ゴクンと飲み込んでそう告げれば、ジュドーがプウッと頬を膨らませる。

「どうせ、バカですよ」

 拗ねたようにそう言う年下の少年にカミーユはクスッと笑みを浮かべた。

「でも、くれるってんなら貰ってやる」

「え、それって!」

 パッと目を輝かせる子供をスルーするようにカミーユは腰を上げた。

 ケーキを持って再び輪の中へと移動れば、追いかけるようにジュドーもついて来る。

「ジュドー、これ食べて!これ食べて!」

 これ幸いとプルが特大のホットケーキをジュドーに差し出した。

 ケーキが足りないだろうからとファアとリィナの三人で焼いたらしい。

 中でも特別いびつな形をしているそれは明らかにプル作だろう。

「さあ、食べて、食べて!」

 プルが特大ホットケーキの盛られた皿を手に笑顔でジュドーに迫る。

 ジュドー助けを請うようにカミーユに視線を向ける。

「ま、頑張れよ」

 カミーユはそう言って笑うと、皿に残っていた最後の一欠けらを口の中に放り込んだ。



ACT1

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