Deeprooted(サンプル1)

 コツコツと足音が響く。

 廊下は片側だけ蛍光灯が点されており薄暗い印象を受ける。

 広い建物とは裏腹に狭い廊下にドイツは訝しげに眉を寄せながら前を行く男の背中を追う。

 ここがどこなのか?

 何の為に呼ばれたのかも分からない。

「おい」

 前を行く男に問いかける。

 男はドイツの問いかけに答えることなく進んでいく。

 最奥に扉が見える。

 男の目的はそこだろう。

 何故ならこの長い廊下には扉らしきものが最奥にあるそれ一つしかない。

 足音を響かせながら男はそこへ向かっていた。

 やがて二人は扉の前で立ち止まる。

「おいっ」

 ドイツはもう一度男を呼んだ。

 そろそろここがどういった場所で、何の為に自分が連れてこられたのか話して貰っても良い頃だと思う。

 男は振り返ると青い瞳を細め不敵な笑みを浮かべた。

見れば分かるさ」

 そう言って扉の脇に備え付けられている電子ロックの透明なカバーを開く。ピッピッと電子音がして、小さな小型カメラ

がまるで生き物の目のように男の青い瞳を覗き込む。

「網膜でチェックか。やけに厳重だな」

 キーの認識にはいろいろあるが、網膜でのチェックとはここは許された人物にしか入ることができない部屋のようだ。

 そんな部屋に何故、自分が呼ばれたのか?

 ますます謎が深まる。

 ピッと音がしてカシャとロックが解除された音が続く。

 男は満足げに笑ってまるで銀行にある金庫を思わせるような重厚な鉄の扉を押し開いた。

 扉の向こうは深い闇が広がっている。

 男は迷うことなく闇に入っていくと、部屋の側面にあるスイッチに触れた。

 刹那、明かりが点り、部屋が光に満たされる。

 突然、目の前に広がった強い光はドイツの視界を奪い、一瞬その空間を真っ白に染めた。

 

 光に慣れてくると徐々に目の前のものが見えてくる。

 男がわざわざドイツを本国から呼び寄せてまで見せたかったもの。

 一体、何があるのかと扉の向こう側に目を向ける。

 しかし明るい光に照らされた部屋はドイツの予想に反して驚くほど何もなかった。広い部屋はまるでホテルのエントラン

スのように円錐形になっており、廊下より幾分天井が高くなっていた。白い壁が一面に広がり、床も白く塗られている。見

渡す限り白の空間。そこは何もないのに妙な威圧感をドイツに与えた。

 ドイツは白い部屋をクルリと見渡して眉間に皺を寄せる。

 部屋の中央に何やら黒い塊が置かれている。丸いそれは小さな窓が二つ、左右についていたが黒いフィルムを貼られてい

るため、遠目からでは中の様子は分からなかった。広い部屋にポツンと置かれた黒く丸い物質。それは白い空間の中で異質

なものに感じられた。

「アメリカ、あれは?」

 ドイツの問いかけにアメリカは笑みを浮かべる。軽快な足取りでそれに近づく。ドイツもアメリカの後を追った。フィル

ムの貼られた小さな窓から中を覗き込む

 何かのシュミレーターだろうか?

 丸い物体の中には一人掛けの椅子が設置されており、飛行機の操縦桿のようなものも見える。

 入り口はすぐに見つかった。窓の隣に扉らしき区切りがあり、ここが開くのだろうと予想できた。

 アメリカがポケットからリモコンらしきものを取り出す。車のリモコンくらいの小さなものだ。赤いボタンが一つ。親指

より一回り大きなそれにくっ付いている。アメリカがボタンを押すと機械音が響いて扉が自動的に押し上げられ横にスライ

ドした。

 中は外から見た以上に狭そうだった。

 男一人座るのが精一杯といった所だろう。

 操縦桿の前面にはモニターがあり、ゲーム機を思わせる。

 アメリカは身を屈ませ操縦桿の下にあるパネルに指を滑らせた。するとまるで命が芽吹いたように丸い物体の内側に細い

光が走る。

 まるで虹色の光が血管のように思え、ドクンと音を響かせ振動したように感じた。

「何だ、これは?」

 冷静に考えればただ機械が起動したにすぎないのだが、ゾクリと背筋に悪寒が走った。

「別になんてことはないただの機械だよ」

 アメリカはそう言うと体を起し、扉に背を預けるように立つとフフンと得意げに鼻を鳴らした。

「何だと思う?」

 もったいぶって話そうとしないアメリカにいい加減焦れていたドイツは苛立ちを露に睨みつけた。


 

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