<しあわせトマト> 本文抜粋 サンプル1

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午前1時三十分――――。

はっきり言ってまだ夜と言って良い時間だ。

眠い目を擦りながらもそもそと布団を抜け出す。残暑もようやくマシになり、朝夕は大分涼しくなった。黒に蛍光の黄色のラインが引かれた薄手の長袖ナイロンジャケットに袖を通し、もさもさになった頭をボリボリと掻きながら、台所に向かう。一人暮らしでも狭いと感じる台所にある、冷蔵しかできない冷蔵庫の扉を開けば、中には牛乳と六枚切りの食パンの袋が入っていた。

 ナルトは冷たい牛乳を取り出してコップに一杯飲んだ後、素早く身支度を整えた

 チンと音がして、焼きあがったパンを取り出すと、バタ―を塗って噛り付く。

 午前一時五十分。

 トントンと階段を駆け下りていく。

 アパ―トの一階にある新聞の販売場所は既に数人の配達員で賑わっていた。

「よう。ナルト」

 世話になっている所長の声にナルトは笑顔で「おはようございます!」と挨拶する。

 その声にあちらこちらから「おはよう」と挨拶の声が掛けられた。

「さあ、もうすぐチラシが届くぞ」

 所長がそう言った時、販売所の前にチラシの山を乗せたトラックが停車し、販売員達の視線が一気にそちらに向く。

 朝刊の配達は戦争だ。

 夕刊と違い配達数も多いし、何よりこのチラシの封入と言う作業がある。これが中々大変なのある。

 気が遠くなる量のチラシを淡々と新聞に挟み込む。

「お―い、そろそろ行くか」

 所長の声に顔を挙げ、出来た新聞を抱え込み外に出た。

 愛車のカブにキ―を入れる。

 方々に散っていく仲間に手を振って、ナルトは配達に出かけた。

 

 新聞配達を始めて二年になる。

 小さい頃に両親を亡くしたナルトはずっと祖父の元で育った。祖父は奔放な人で小説の執筆をしながら全国を回っているような人だった。

 北は北海道から南は沖縄まで。

 祖父について全国を回るのは楽しかった。

 そりゃせっかく友達ができてもすぐに別れるのは寂しかったけれど、ナルトは祖父が大好きだった。両親がいなかったことを辛いと思ったことなど一度もない。運動会や学校行事で皆が両親に囲まれているのを見ると寂しい気持ちにはなったが、いつだってナルトには祖父が居たから。

 スケベでいい加減で嘘つきで……だけどたくさんの楽しいことを教えてくれた。

 そんな祖父が突然倒れたのが二年前だ。

 元々肝臓が悪かったのだが、肝硬変を起こし、尚且つ合併症もあり、今もまだ入退院を繰り返していた。

 当初、中学三年生だったナルトは元々勉強が好きではなかったし、就職することにした。治療にはかなりのお金が掛かる事は子供でも分かっていたし、祖父の蓄えに頼るわけには行かないと思っていたからだ。しかし、祖父は大反対した。ナルトを高校に行かせるのは死んだ息子との約束だと行って譲らなかった。もしナルトが進学を諦めれば、自分も病院を脱走するとまで言い出して……結果、ナルトは高校への進学を決めた。

 高校に行きたくなかったわけではない。

 勉強は嫌いだが、学校は好きだった。

 高校へ行くと新しい友達もできるだろうし、くだらない話をしながらつるむのは楽しかった。

 だけど、進学すればお金が掛かる。

 最近の国の政策により、授業料は掛からなくなったが……それでも諸々必要だ。悩むナルトに当時、隣に住んでいた高校教師のイルカが奨学金を薦めてくれた。

 大抵の奨学金には成績など条件がついてくる。

 そんな中、新聞社の奨学金は面談で済む。卒業後も返済もなく寮も完備と至れり尽くせりだ。新聞配達をすることで多少の収入も入るので生活も助かる。このご時世、中卒での就職はかなり厳しかったので、それならばと学校へ行きながら働けるここを選んだ。

 いざ始めてみると自由になる時間は少ないし、朝がめちゃくちゃ早いのでいつも眠いしと不満もあるが、学校生活はそれなりに充実していて楽しい。

 販売所では最年少ということもあり、いろいろと可愛がって貰っていた。

 早いもので新聞配達を始めて二年。十六歳になってすぐにバイクの免許を取得し、会社から借りている愛車のカブが小気味良いエンジンを響かせながら走る。

 軽快なリズムで次々にポストに新聞を放り込んでいけば、あっという間に時間は過ぎていった。


 

 

 最後の家のポストに新聞を入れてホッと一息つく。

 さあ、あとは販売所に戻るだけだ。帰ったら冷たい牛乳を飲もう。

 寮から学校までは歩いて五分ほどの距離なのであと一時間半は眠ることもできる。

 鼻歌を歌いながらバイクに跨ったその時―――――。

「え?」

 ナルトは思わず声を漏らした。

 九月も終わりに差し掛かり、日が昇るのが少し遅くなった。六時前とはいえまだ暗い空に小さな光が流れた。それは弧を描き、こちらに向かってくる。

 流れ星?それとも雷?

 疑問に思いつつそれを見つめていると、光はここからそう離れていない場所に落下した。

「え、落ちた?」

 激しい音はしなかった。

 だけど、確かに光が落ちたのを見た。

「あそこって」

 確かあの場所には結構広い公園があったはずだ。

 胸がドキドキと高鳴る。

 まさかとは思うがUFOか?未知の遭遇?

「ええ〜、まさか〜」

 昨日の夜見た「世界の不思議」とか言うテレビ番組を思い出す。基本的にナルトは好奇心旺盛で「不思議」と名のつくものに弱い。そのくせ恐がりでホラ―映画を見たりなんかすると一晩中眠れなくなるほどだ。

 昨日見たテレビ番組はホラ―の類ではなくドキュメンタリ―だったけれど、宇宙からの侵略者とかメッセ―ジにドキドキしたのを思い出す。

(本当にUFOで宇宙からの侵略者だったらどうしよう)

 頭が大きくて手足が短い。灰色でどこかもかしこもツルッとしている宇宙人の典型的イメ―ジが頭を過ぎる。

(宇宙人に見つかったら連れて行かれるのかな?)

 そういえば昔、良く言っていった。宇宙人に見つかったらUFOに連れて行かれて頭の中を弄られるとか。地球の情報を得る為だとか。

(そ、それは嫌だってばよ〜)

 そう思いつつも足を止められない。

 気づけば目の前に公園の入り口は迫ってきていた。

 

「あ……」

 

 確かに光はそこにあった。

 見間違いなどではなかった。

 

 公園のちょうどブランコと滑り台の間。広く空いている場所に光の玉がある。想像していたのよりは小さいが、それでも両腕で抱え込むには難しい大きさだ。サッカ―ボ―ルだと十個分くらいだろうか?それは柔らかな光を放っていた。

 やがて明らみ始めた空に光が薄らいでいく。丸い球体から光が損なわれていき、やがて膝を抱えた青年のような形になった。

 そして――――。

 ナルトは思わず何も言えなかった。

 光が完全に失われるとそこには一人の青年が膝を丸め座っていた。

 黒い髪に白い肌の青年だ。ゆっくりと青年は顔をナルトに向ける。

 向けられた黒い瞳は真っ黒で宝石のように美しかった。こんなに整った顔がいたのかと思うほど、まるで人形のような計算しつくしたような容姿。彼はフッと眼を細めると、ナルトを見て微笑んだ。

「あっ……」

 刹那、ドクンと心臓が跳ね上がり、ナルトの顔に赤が広がっていく。頬が火照っていく。綺麗だと思った。こんな綺麗な人を見たのは初めてだと思う。白い肌に黒い髪が良く映える。切れ長の瞳は涼やかで、名残のような光を纏う姿はとても神々しい。

 呆然と見つめるナルトに青年は苦笑いを零した。

「おい」

 公園の柵の向こう側にいるナルトに青年が呼びかける。

 ナルトは柵に添うようにバイクを止めて青年に近づいた。

 青年はナルトが近づくと自分の体を両腕で抱きしめて問いかけた。

「何で裸なんだ?」

「へ?」

「だから何故、俺は裸なんだ?」

「はあ?」と思わず間の抜けた声を出してしまったのは仕方がないと思う。何故、彼が裸だなんて光を追ってきただけのナルトがそんなこと知るはずもない。それはこちらが聞きたいぐらいだった。すらりとした肢体はとても美しいし、芸術的かもしれない。写真家が見たならばすぐさまシャッタ―を切ったに違いない。だからと言って公園を裸で徘徊してたらわいせつ罪で捕まること間違いなしだ。

 何故、裸?

「俺が聞きたいってばよ」

 そう声を漏らすと青年は額に手を当てて、痛みに耐えるような顔をした。

「どっか痛いのか?」

 苦悶に歪むその顔に問いかければ、違うと首を横に振る。

「この状況を分析してるんだ」

「はあ」

「カカシのヤツ…あとで絶対殴る」

 グッと拳を握り締める青年にナルトは首を傾ける。

 はっきり言って状況がまるで分からない。彼は一体何者なのか?想像していた円盤の宇宙船のようなものは見当たらない。けれどあの光は彼が纏っていたものに違いなかった。

 宇宙人?

 それにしては自分と余り変わらない。

 顔も髪も肌もとっても綺麗だけれど、地球外生物には見えない。普通の人間のようだ。

「あのさ…とりあえず、俺帰るってばよ」

 良く分からないものを考えても仕方がない。そもそも自分はここを通りかかっただけで、仕事の途中である。配達は完了しているが販売所に戻ってバイクを返して報告をするまでは仕事は終っていないのだ。

 じゃあと言って背を向けた瞬間、腕をグイッと引っ張られた。

 思わず「はへ」と素っ頓狂は声が零れる。

 どうやら腕を彼に掴まれたようだ。何だろうと顔を向けると彼は皺を寄せ、難しい顔をしていた。

「何?」

「俺をこのままにしておく気か?」

「は?」

「だから、俺をこのままにして行くつもりなのかと聞いている」

 このままも何も、ナルトが連れてきたわけではない。彼がここにいて、自分は通り掛かっただけなのだ。服を脱がしたのも自分ではない。

 だけど……9月も終わりに差し掛かり朝夕はかなり涼しくなった。そんな中、全裸というのは如何なものかと思う。どうやら彼が好き好んで脱いだわけでもないようだし、このままでは確実に警察行きだ。

 どんな事情があるのかは知らないが、少し可哀想に思えたのがいけなかった。

「とりあえず上着を貸せ」

 青年は偉そうな口調でそう言うと、ナルトのジャケットをグイッと掴んだ。

「あ、ああ」

 何が何だか分からないままナルトは慌ててジャケットを脱いで青年に渡した。青年は渋々といった感じで溜息を零しながらナルトのジャケットに素肌のまま袖を通す。どうやら体型は同じくらいのようだ。ジャケットは残念ながら青年の下半身までは隠してくれなかった。当たり前だがこれで良いはずがない。ジトッと見つめられナルトは頬を引き攣らせた。あたまり前だがズボンを脱いで貸すわけにはいかない。そんなことをすればナルトが警察のご厄介になるはめに

なる。仕方がないのでTシャツも脱いで彼に渡した。青年はそれを腰に巻く。かなり不恰好ではあるが致しかたない。上半身裸になったナルトはクシュンとくしゃみを漏らした。

 そんなこんなのうちに明るくなってしまってが、幸いまだ人は少ない。

 販売所はすぐそこだし、通報される前にさっさと帰ろう。

 とにかく早く帰らなくては、このままでは確実に風邪を引く。

 販売所に一声掛けて、すぐに上に上がって服を着替えよう。だけど上着のない理由を聞かれたら……なんて答えていいか分からない。

「俺、そこの新聞販売所に勤めてるから、その服後で返してくれってばよ」

「おい」

「じゃあ」

 と、言い捨てて今度こそ青年を置いて公園を立ち去る。上半身裸の言い訳を考えながら、カブのエンジンを掛けて、風に身を凍らせながら家を目指した。

 


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