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2 朝の光を浴びながら、出て行った少年を見送ってサスケは溜息を零した。 「あいつ……」 何なんだ?と黒髪を1房掴んで眉を歪める。 テレビからはかけ流しのニュ―スが聞こえてきた。 しかし、サスケは溜息を漏らす。 ここが何処なのかも分らない。 自分のいた星とどのくらい離れているのかも定かではなかった。 確かなことはカカシの万華鏡写輪眼による時空間忍術によりこの星に来たということだけだ。それにしても時空間忍術で飛ばされたのは初めてでではないが、今回のように全裸で何も一つ持たされず飛ばされるということなどなかった。 「あいつも老いたな」 一応師匠に当たる人間に言うべき言葉ではないが、言わずには居られない。たまたま遭遇したのが人の良さそうな少年だったから良かったようなものの、そうでなかったら大変なことになっていたと思う。 帰ったら一発殴る。そう心に決めてサスケはゴロンと横たわった。 飛ばされる前は夜になったばかり時間だった。 それが今は朝だ。時差にして数時間。体は眠りを欲している。 暖かな日差しが差し込む部屋で何もすることがなく横になっていれば自然とまどろみに包まれた。 ふわあっと欠伸を漏らし、低い天井を見上げる。 この部屋そのものは自分のいた世界にもありそうだ。 しかし街並みが違う。 種明かしをするとサスケはバイクで走る少年を追って此処へ来た。相手が変な乗り物を乗っていたが忍びの足ならば追いかけるのは容易い。それから式を用いて少年の上着の匂いのする部屋を探させた。上着のポケットに鍵も入っていたし、部屋に入るのは簡単だ。流石にシャツを下半身に巻いたままなのは勘弁して欲しかったので押入れの引き出しから洗濯してある下着とシャツ、スラックスを出して適当に着用した。 そんなサスケに少年はかなり驚いたようだが、怒ったり追い出したりしようとはしなかった。 「変なヤツだ」 そういえばまだ少年の名前を聞いていないことに気づく。 一人暮らしのようで部屋には布団が一組敷かれたままになっている他、三段の棚が一つとその上に小さなテレビ。先ほどご飯を食べた青色の天板の机が一つ。 「何にもない部屋だな」 そう感想を述べた。 とろとろと襲い来る眠気に瞼を下ろす。 カカシからの連絡はない。情報を収集すべきなのかもしれないが、今はとにかくこの疲労感を何とかしたかった。術を掛けたカカシほどではないにしろ、長距離の時空間移動に体が疲れにズシリと重くなる。 こんなに穏やかで良い天気なのも悪い。 鳥のさえずりを聞きながら、サスケは重く圧し掛かる瞼をゆっくりと下ろした。 「サスケ、おい、サスケ」 揺すられて気づく。 すぐ目の前にナルトの顔があることに驚き、サスケはガバッと起き上がった。 「あれ、お前……」 確か出かけたのではなかったのか?と思う。 「もう何時間経ってると思ってるってばよ。学校終って帰って来ちゃったぜ」 その言葉に時計を見る。時計は自分の星と同じものだったので、何となく見方は分った。テレビも同じだ。この星はどことなく自分の星に似ている。 七を差していた短い針が今は三の所を差していた。 ずいぶん長く寝こけてしまったものである。 (それはともかく、この俺が……) 帰ってきて……しかもこんなに接近されるまで気づかないなんて……。 (何者だ?コイツ?) そう思いつつマジマジと目の前の少年を見つめた。すると何故か頬を赤らめて顔を背ける。 「どうかしたのか?」 「べ、別に何でもないってばよ!」 ズイッと身を乗り出して顔を寄せれば、相手の顔が余計に赤く染まった。 (面白れぇ) さらに詰め寄れば少年は体を後ろに退いて床に尻餅をつく。 「ちょ、近づくなよ」 「何だよ、変なヤツだな」 「と、とにかく。俺ってばこれから仕事だからな」 「仕事?」 そう言えば、あんな早朝に何をしてたんだろうとサスケは首を傾けた。 遊んでいる風には見えなかったが……。 「新聞配達」 「新聞?」 「ああ。今起こっていることとか、世界の情勢なんかを皆に伝えるんだ。朝配ってたのが朝刊。これから配るのが夕刊」 「へえ」 瓦版みたいなものだろうか?それにしても一日二回とは大変だなと思う。年は自分と変わらないように見える。新聞配達の合間に学校に行っているのだろうか。 「んじゃ、晩飯までには帰るから」 「あ、ああ」 「晩御飯食ってくだろ?何が食いたい?」 「いや…別に」 「そっか、じゃあ適当に惣菜買ってくるな!」 そう言って慌しく部屋を出て行く。今、帰って着たばかりだというのに忙しいヤツだ。結局また名前を聞きそびれたことに舌打ちして、またゴロンと床に寝そべった。 良く眠ったせいか、眠気はやってこなかった。 テレビをつけてこの世界の情報を収集しつつ、ごろごろと床に転がっていた。 日が陰り、部屋の中が赤く染まっていく。夕日が沈む様も良く似ている。本当にこの星はどこにあるんだろう。 サスケはハアッと溜息を漏らした。 とにかく今は仲間からの連絡を待つ。ここへ来た目的を果たすためにも重要である。何せ今のサスケには明日着る服さえないのだ。 身動きが取れないとはまさにこういうことだと思う。 サスケの目的とはある宇宙犯罪者の追跡及び抹殺である。大規模な宇宙テロ組織「蛇」のリ―ダ―大蛇丸。「蛇」は宇宙でかなりの力を持つ闇の組織だ。人体実験から始まり、化学兵器を作っては大量殺人を犯している犯罪者だ。肥大する組織の中でヤツは神のような扱いを受けており、一種の宗教団体のようになりつつあった。 巨大組織となった「蛇」の拠点は全宇宙にある。だが、巧妙かつ陰湿で徹底した秘密主義である組織の行方を掴むことは末端でも難しい。 そんな折り、火の星はある情報を得た。 火の星にはいくつかの国があり、それに属する里がある。里には「忍」と呼ばれる訓練により特殊な力と並外れた運動能力を持つ者が存在した。 サスケもその一人である。 「国」の中でも最も力を持つ国に属した「里」―――木の葉における「忍」の最高ランクである「上忍」という称号を持つ。 昨日の朝、サスケは「里」の最高司令長官である「火影」にある任務を言い渡された。 任務の内容を告げられる前に火影はサスケに一通の手紙を差し出した。封筒に押された刻印には見覚えがある。 犯罪組織「蛇」の紋章。 眉を寄せて中をする。 数日前、火の国で自爆テロが起こった。ちょうど各国の首脳陣が集まる会議を狙ってのことだ。幸い首脳陣は怪我をしたものの一命を取り留めた。しかし多くの人がそのテロで亡くなった。 実行犯は警察の中にいた。首脳陣を守るはずの警察が全身に爆発物をつけて自爆したのだ。 跡形もなく砕け散った男 男は満足だったのだろうか? 自分自身も巻き添えにして、喪うことが望みだったのだろうか? 理解に苦しむとサスケは思う。 忍びとて任務の為に命を掛ける。自分の命など安いものだと思っていた。忍び一家に育った自分にはそれは当たり前のことだった。 だが、死にたいというのとは違う。 死ぬ為に戦っているわけではないのだ。 この違いは大きいと思う。 昨夜、サスケは上司と同僚と共に「蛇」の末端組織を突き止めることに成功した。だが、それは密告によるもので信憑性は疑われた。世界会議の最終日に爆弾を仕掛けるらしい。その情報を元に三人は密告を受けた場所に赴いた。 小さな家の小さな地下に設けられた部屋で彼らは顔をつき合わせて何かの相談をしていた。 それがテロに関するものだと分かった瞬間、三人はその部屋に押し入った。 部屋にいたのは男が三人と女が一人。 まだ若い男女だ。 男の一人は何やら怪しい装置のようなものを持っていた。だが、それだけで一般人である彼らが忍びにかなうわけがない。 逃げようとする男女をあっという間に捕まえて「蛇」に繋がるものを探そうとしたその時―――――。 「サスケ!」 声がした。上司であるカカシの声だ。 「いかん、逃げろ!」 言われた瞬間、足元がぐにゃと歪んだような感覚に眉を寄せた。床がまるでふにゃふにゃのスポンジのようになり、サスケの足を飲み込んでいる。 「くっ」 まるで見えない何かに引きずり込まれるように床に体がのめりこんでいく。 幻術の類かとも思ったがどうやら違うらしい。 刹那、サスケの瞳が変化する。うちは一族にのみ許された瞳術である「写輪眼」である。写輪眼を用いてこの術を発動している相手を探った。 「捕まって」 同僚のサイが描いたロ―プを投げる。サスケはそれをグッと掴んだ。 強力な力がサスケを飲み込もうとしている。 そういえば、大蛇丸は自分を……正確にはうちは一族のこの血継限界と言われる能力を欲していたことを思い出す。 やはり罠だったかとサスケは舌打ちした。しかもこの罠は自分の為に設けられたもの。 サスケを手に入れるための罠だったのだ。 (そうはいくかよ) 眼に力を集め、この術の術者を探る。 刹那、ハッと気づいた。 この術の術者はここにはいない。遠くどこか離れた地で術を行なっている。 だが、いかにすごい術者でも見えない相手に術を施すことはできない。誰かが術者の目の代わりをしているのだ。 そしてその術者は―――― 両手両足を拘束されていた男の一人が口元を歪める。 「カカシ、そいつだ!」 そう言った瞬間、ほぼ同時に気づいたであろうカカシが背中から床に男の顔を押し付ける。 痛みに男が瞳を閉じた瞬間、背中にゾクリとしたものを感じた。 「カカシ離れろ!」 叫んだが早いか、遅いか床に顔を埋めていた男の体が醜く膨れ上がる。風船のように膨れ上がった体に男はくぐもった声を漏らした。 皮膚が限界まで張り詰め裂ける。腕から足から顔から血が吹き出た瞬間、部屋に閃光が満ちた。男の体がまるでそれ自体が爆弾であったかのように爆風と衝撃を持って破裂したのだ。 足を取られていたサスケは避けることも叶わず頭を腕で抱え込み体を出来るだけ小さく丸める。 「サスケ!」 カカシの声が聞こえた瞬間、サスケは万華鏡写輪眼の慟哭を感じた。 「思い出した」 日が落ちて暗闇に包まれた部屋でサスケは呟いた。 どうやらまた少し眠っていたらしい。 開けっ放しの窓から差し込む月明かりに眼を細め、ゆっくりと体を起す。階下から元気な声が聞こえて来た。顔を覗かせると金色の頭が見える。年配の同僚に頭を掻き回されながら少年は笑っていた。 一体、どのくらい飛ばされたのだろう。 ここはどこなのだろう。 どちらにしても自分を見つけたのが彼で良かったのかもしれない。 「じゃあ」と少年が手を振る。 黄色の頭が見えなくなり、変わりにタンタンと金属の階段が音を立てた。 少年の名前は渦巻ナルト。現在、高校という学校に通う二年生で十七歳。 「何だ同じ歳か」 サスケがそう呟くとナルトはたいそう驚いた顔をした。 「何だ?」 「いや、なんかサスケってば老けて…いや、大人っぽいから年上なのかと思ってたってばよ」 今、言い直したなと思いつつ、サスケは箸を持つ手を止めた。 夕食はレトルトのラ―メンにご飯。あとは練ったジャガイモを油で揚げたコロッケという食べ物の二つだ。良く分からないが栄養のバランスが偏ったメニュ―な気がする。味は悪くない。ラ―メンは自分の星にもあるが、この星のラ―メンもとても美味しかった。コロッケという黄色の食べ物も中々の美味である。 それらを口に入れながらサスケは彼のことを尋ねた。 まずは名前。それから年齢と――――。 別に隠すことでもないと思っているのか彼は明るい笑顔で屈託なくそれらを話した。 ナルトからもサスケに質問が寄せられる。 任務の内容はもちろん秘密だ。 明かせる程度といえば、自分が他所の星から来たのだということ。あとは犯罪組織を追いかけているということぐらい。諜報活動そのものは秘密事項で誰かに気安く話す話ではない。 しかし世話になるのであれば必要最低限は話しておく必要があるだろう、とサスケはかなり大まかで歯抜けも多いが一応説明した。 「なんか話が壮大でついていけないってばよ」 聞いているだけで脳みそがパンパンになったのか、う―んと唸りながら頭を抱えるナルトをサスケは苦笑いを浮かべ見つめていた。 少なくとも自分の星では「蛇」の存在を知らないものはいない。 名前を聞いただけで恐怖に震えるものがいるくらいだ。 だがこの星では知られていないらしい。一体、ここはどのくらい自分の星から離れているのだろうか? 当たり前だが宇宙を飛び越えるほどの忍術を使ったことはない。 一体、全体何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。 サスケはフウッと息を吐く。 とにかくこんな見ず知らずの土地で先立つものもない。言葉が通じるのは良かったがこの先の見通しなどまるでたたなかった。 ズンと肩の辺りが重たくなって項垂れていると、ナルトが「仕方ねぇな〜」と軽い口調で言った。 「とりあえず、ここに居れば良いってばよ」 「は?」 「だってさ、行く所ないんだろ?」 こいつは自分の話を聞いていたのだろうか?とサスケは眼を丸くする。 「え、だが…良いのか?」 「ああ。今は俺一人だし」 「一人?」 「まあな。両親は早くに死んじまったし、俺を育ててくれた祖父ちゃんは今入院してっからさ」 「それは……」 悪い事を聞いてしまったと罰悪げな表情を浮かべればナルトは笑いながら手を振る。 「気にすんなって」 「いや……」 「それより帰る方法だよな」 問題はそこなのか? う―んと頭を悩ませているナルトにチラリと視線を向けて、サスケは少し延びた麺を吸い上げた。 |