目隠しの恋
プロローグ
誰かの声が聞こえた。
もう何も見なくて良いのだと。
誰かの声。
もう何も傷つかなくて良いと。
本当は全てを知って 生きて欲しかったけれど。
でもそれが叶わないのなら…。
生きていてくれればそれでいい。
今度こそ幸せになれるから…。
だからお休み。
薄づきの桜色の花びらが風に舞う。
ヒラヒラ
ヒラヒラ
美しく軽やかに舞い、降り積もる。
綺麗だ…と彼は思った。
花びらは彼を覆い尽くして…包み隠していく。
心地よさに彼はもう一度瞳を閉じた。
だが直ぐに瞳を開く。
身を起こせば目に飛び込んできたのは美しい花を咲かせる巨木。
自分は太い根を枕に横たわり、桜の花を敷いて眠っていたのだと知る。
それからふと思う。
ここはどこだろう。
彼はハッとした。
ここがどこで、自分はどうして横たわっていたのか?
いやそれだけではない。
「俺は…」
誰だ?
憶えていない事実に驚愕する。
本当に何も……。
ここはどこで、自分が何者なのか。どうして眠っていたのか。
自分に語りかけていたのは誰なのか。
反射的に彼は自分の頭に手をやろうとして動きを止めた。
目の奥にツキンと鋭い痛みが走る。
「うっ…」
痛みに呻いて彼は顔を伏せた。
猛烈な痛みが彼を襲う。とても瞳を開けていることなど出来ない。
痛い。
苦しい。
何だこの痛みは…。
誰かに助けを求めるように手を伸ばし思う。
一体誰に助けを求めようというのか。
もう誰もいない。
もう何もないのに…。
目の奥に赤いものが広がっていく。
ああっ…と声が零れた。
遠くで誰かの声が聞こえた気がする。
けれどそれが誰なのか……。
もう何も思い出せなかった。