目隠しの恋5

 

 

 うずまきナルトは変やつだった。

 あの日から月に一度は姿を見せるようになった。

 時々は土産も持参する。

 何故か自分が甘いものは食べないと知っているようで、土産はせんべいだとかあられだとか醤油を使った菓子が多かった。その割りに

自分は甘党のようで、いのりと自分用にはまんじゅうを買って来たりもする。

 マメだなと思う。

 伊庭が上取引先だからだろうか?

 それにしても変りものだと思う。

 ナルトは朝の散歩が終わる頃、昼食の前にやってくることが多かった。事前に来るということは伝えてあったのだろうが、都合の良いタイ

ミングで来てしっかり昼食を食べていくのだ。それから一時間ばかり伊庭と話をした後、サスケの散歩について来る。「いいのか?」と尋ね

るといつも「どうせ暇だから」と言った。

 山を降りるのも大変だろうにとサスケはいつも思う。

 だが、家主の客人であるナルトを無下にもできず、ついてきたいというのなら勝手にすれば良いとばかり、一緒に散歩に出かけた。

 ナルトは愛想が良く、村で出会った人に明るく挨拶をして歩く。そんなナルトを村人も好ましく思っているようで、二人で歩いていると

いつも以上に声を掛けられた。

 このところのサスケの散歩コースは決まっていて、屋敷をでて村の外周をグルリと一周する。

 小さな村なので僅かな時間で一周できた。それから村の中央にある一番広い道を通ってつきあたりにある小さな神社向かう。いのりの話

では稲荷を祭った神社の分祀らしい。この村には神社がひとつ。職人たちの仕事の無事を見守っている。

 細い階段は全部で10段。

 杖を使って登れるようになったのは最近のことだ。

 おそらく空は茜色に染まっているだろう。

 そんな中、杖を頼りに上へ上がり、神社に参拝する。

 賽銭などなく、手を合わせるだけだが、サスケの日課となっていた。

 ナルトはそんなサスケの後をついてくる。

 サスケが手を貸されるのを拒むので、決して差し出してくることはない。

 歩いている時は意識が逸れるのも嫌なので、終始無言だった。

 こんな散歩についてきて何が楽しいのか疑問だが、文句も言わず毎回ついてくる。

 男が二人、並んで歩いている様子はおかしなものだろう。

 それとも目が不自由だから、不自然ではないだろうか。だが、それはそれで複雑だ。

 健常者でないということに若干のコンプレックスを抱いているのは否めない。自分はそんな想いを生まれた時からしてきたのだろうかと思

うと疑問が浮かぶ。

 記憶など何ひとつない。

 どこで生まれ、どうやって生きてきたのか。

 自分が何者なのか。いつから目が見えなくなったのか。

 何も憶えていない。

 けれど、不思議なことに夢を見るのだ。

 それも色つきの夢。

 闇の中で生きてきた自分が何故か鮮明に思い出せる。

 薄く色づく美しい桜の花。

 あれは想像の産物なのだろうか。

 いつもように境内に上がり、手を合わせ頭を下げる。

 するとナルトがポンと肩を叩いた。

「少しだけ休憩しようぜ」

 ナルトがそういうのはいつものことだ。彼がサスケの散歩に付き合った時は必ずこの境内にある大きな木の下で腰を下ろし休憩する。

 最初はナルトに手首を掴まれ強引に連れて行かれた。

 それから何度か同じ場所で休憩を取るようになり、サスケも手を引かれなくても行けるようになった。

 杖で前を探り、障害物がないかを確認しながら歩くので、サッとは移動できないが、ゆっくりといつもの場所に行く。

 たどり着くと先に座っていたナルトがクイっと服の裾を引っ張った。

 そこに座れという合図だ。

 サスケは迷うことなく腰を下ろした。大丈夫。下に何もないとあらかじめナルトが確認してくれている。

 不慣れなころは杖でそれも確認していたが、ナルトに苦笑いされたのだ。「大丈夫だってばよ」と言われ、サスケを促した場所に何もな

いか予めナルトが見てくれたことを気づいた。それから信用して座るようにしている。

 肩を並べて座ると、ナルトがサスケの手に何かを握らせた。

「これは?」

「ん、まんじゅうだってばよ。餡子のまんじゅう」

 ナルトの言葉に露骨に嫌な顔をすると、プッと笑い出す。

「俺は甘いもんは……」

「分かってるって。でもそれは食べられるんじゃないかと思ってよ」

「どういうことだ?」

 普通のまんじゅうとは違うということだろうか?

 首を傾けると「いいから一口食べてみろ」と促された。

 仕方なく口元に持っていく。

 別に甘いものが食べられないわけではないのだ。ただ、得意ではないだけの話である。

 クンと匂いを嗅ぐと特に普通と変わらないような気がした。

 何が違うのだろう。

 疑問に思いながら口を開く。

「あっ」

 それを口にした瞬間思わず声が出た。

「塩か」

 まんじゅうの皮がしょっぱいのだ。中の餡子も甘みが抑えられていて食べやすい。

「そう塩まんじゅう」

 これなら甘すぎないだろとナルトが笑う。

「ここに来る途中の町で売っててさ、美味そうだったからさ」

「……そうか」

「やっぱダメか?」

「いや、これなら少しは食べられそうだ」

 たくさんはいらないが少しなら美味しく食べられる。

 小ぶりなそれを二口ほどで食べ終えて、竹筒の水筒からお茶を口に含んだ。

 餡子と塩、それにお茶が良く合う。

「良かったってばよ」

 機嫌の良いナルトの声にサスケは苦笑いを浮かべた。

 サスケはこの村に知り合いなどいない。

 頼りになるのは助けてくれた伊庭といのりくらいのものだ。だからかも知れないが、ナルトとこうしていると友人と一緒にいるような

温かな気持ちになる自分がいる。

 ナルトが何を想い、何を考えて自分と一緒にいるのかは分からないが、こうして二人で過ごす時間が心地よく感じられた。

 ナルトが来るのは月に一度か二度だ。昼前に来て、日が落ちる前にはいなくなる。ほんの僅かな時間なのに。

「そろそろ風が冷たくなってきたってばよ」

 もう冬か……とナルトが何気なく呟く。

「このあたりは冬になると雪が降るからな……」

 雪が降ればこの村への道は凍結してしまい、行き来するのは厳しくなるらしい。

「じゃあ、当分来れないか?」

 思わずそう尋ねてしまった自分にサスケは戸惑った。

 これではまるで来てほしいと言っているようなものだ。

 カアと顔が赤くなり、顔を伏せる。そんなサスケにナルトは明るい調子で言った。

「俺ってば鍛えてるから平気だってばよ」

 だから合いに来る。

 そう言われているようでますます顔が熱くなる。

「別に俺は……」

「俺もサスケに会いたいし、それに仕事だからさ」

「俺に会いたい?」

 どうして?とサスケは思う。

 こんな目の見えない自分なんかに会ったって楽しいことなどないだろうに。

 するとナルトは「そんなことないってばよ」と言って笑った。

「だって、俺たち友達だろ」

「友達?」

「そう友達」

「俺と?」

「うん。サスケと」

「いつから…そんな、友達って……」

 思いも寄らなかった言葉に驚けば、ナルトが困ったように呟いた。

「サスケは俺と友達になるの嫌か?」

 もちろん嫌なわけではないが、戸惑いはある。

 普通の者ならいざ知らずこんな自分と……と思うと胸がチクリと痛む。

 ナルトは明るいし、友達もたくさんいるだろう。

 それなのに何故、自分なんかと友達になりたいのか分からない。

 「嫌か?」と尋ねる言葉にナルトの不安な気持ちが感じ取れ、サスケはますます困惑する。

「別に……嫌じゃねえ……」

 ナルトが嫌でないのなら自分が厭う理由がないのだ。

「へへ、良かった」

 ホッと胸を撫で下ろしたのが伝わってくる。

「変なやつだなお前」

 そう言えばナルトは「良く言われるってばよ」と笑った。


 

 

***************************************************

 サスケが乙女ですみません<m(__)m>
 

 

 



 4 / 6