朱い珠

一.



遙か昔――――遠い西の果てで一つの国が消えた。
その国は邪悪な力を持つ妖によって滅ぼされたのだ。
素晴らしき文明を誇った国は一夜にして滅び、その大地は深い海の底に沈んだ。
国が沈む際、王は自らの命と引き換えに妖を封じ込めた。
『明王』と『暁』。
二つの朱の玉の中へ――――。
大地はその二つの珠を抱き、深い海の底で眠りについた。
千年以上前の話である。
それが事実であるのか、それとも誰かの捏造の物語にすぎないのかは謎である。



 芝居小屋を出て、茶店に入った鳴門は熱いお茶と団子を二串注文した。
「面白かったってばよ」
 この街に来る際、通りすがりのチンピラに絡まれていた婆さんを助けた時、礼だと渡されたものだが中々面白かった。
 鳴門は熱いお茶を啜りながら息を吐いた。
 甘い団子が旅の疲れを癒してくれる。 
「こらこら、そんなくつろいでいる余裕はないじゃろうが?」
 相棒の蝦蟇が懐からヒョイと顔を出して咎めた。
 中山道を西に足を進めれば、京の都が見えてくる。
 ここは都に向う途中の宿場町で、ここから京の都まではまだ距離がある。
 しかも鳴門達の行き先は京ではない。
都を越え、更に向こうの摂津の国だ。
 こんな調子で歩を進めていたのではいつになることやら。
 ぼやく蝦蟇に鳴門はポリポリと頭を掻いた。
「だいたいその格好は何んじゃ。だらしのないのう」
 蝦蟇がそう指摘するのも尤もだった。鳴門は格好は橙色の着物を派手に着崩して、大きく開いた胸にはサラシを巻くというもので、あげくに片袖を脱いで、胸元から手を覗かせて歩くその格好はどう見てもチンピラにしか見えない。
 蝦蟇はハアっとため息を零した。
「わしゃ、あの方に何と言ったら良いんじゃ…」
「そんなの気にするなってばよ」
そんな蝦蟇の嘆きなどよそ事のように鳴門が笑う。正直、鳴門は結構自分の格好に自信があった。この国に来る前に資料として幼馴染の佐為に貸してもらった文献「清水次郎長伝」。それが鳴門はかなりお気に入りで服装は本の登場人物からちゃんと学んだのだ。
 おかげで至る所で絡まれているのだが、本人は全く気にしちゃいない。むしろ楽しんでいた。
 こっちの気も知らずにと蝦蟇は思う。
「それにしてもなあ…」
 風呂敷から鳴門は一枚の紙を取り出した。
 紙には地図が描かれていた。今回の旅の目的はこの地図に書かれていた場所に行くことなのだが、道のりはまだまだ遠い。
「そうえいば、さっきのヤツは良いのか?」
 蝦蟇が言うのは先ほど森の中ですれ違った青年のことだ。あの身のこなし、只者ではない。自分の登場で戦う気が削がれてくれたお陰で助かったが、あのまま切り合っていたらこうして暢気にお茶なんか啜ってはいられなかっただろう。
 鳴門はニッと笑うと「あいつとはまた会うからな」と言って、最後の団子を口に放り込んだ。
「また会う?」
「ああ、あいつの触書を思い出した。あいつも『暁』を探している。俺と違って組織の方だけどな」
 鳴門が触書を憶えているなんて珍しいと蝦蟇は思った。
 しかし、同じ組織を追っているとは……。
「やっかいなことにならなきゃ良いがのう」
「ま、気にすんなって」
 鳴門は軽くそう言うと、お茶を綺麗に飲み干して腰を上げた。
 思い出す―――――――青年のあの瞳、動作、静かな立ち振る舞い。あれほどの剣士はそういない。
 すれ違い様、思わず汗が噴き出た。
 背中越しに伝わる奴の殺気にゾクリと体が震えた。
「会うのが楽しみだぜ」
 思い出しただけで武者震いがこみ上げてくる。今回はすれ違っただけだが、次に会ったらぜひとも手合わせをしてみたいと鳴門は口の端を上げた。
 組織『暁』は最近勢力を伸ばしてきた江戸の街を脅かす武力集団だ。
 目的などは一切不明。
 ただ分かっているのは、彼らが暗躍し、将軍を追い出そうとする薩長の動きに関与しようとしていることだけだった。
 しかし鳴門の目的は別にある。
 その暁が所有しているという宝玉『暁』。それは元々、我らの物だった。途中、いろいろあってお尋ね者になってはいるが、暁に奪われた宝玉を取り戻すことが自分に課せられた使命である。
 まずは摂津の国のどこかにあるという暁の拠点を目指す。
(うちは佐助…か…)
 触書より随分綺麗な顔立ちをしていたと思う。
 鳴門は団子の串を口に咥え、歯で噛み締めてニッと笑った。



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アニメのエンディングを見て、どうしても書きたくなってしまいました。
でも書いている内に設定が・・・どんどん膨らんで来て可笑しなことに(汗)
ど、どうしましょうね〜。とりあえず書いてみます(笑)
ちなみにこれはヤクザを目指した(でもヤクザを誤解している)チンピラ風の
何処の国の王子(長いよ、設定)×兄の凶行でお家断絶にされ復讐に燃え旅をして
いる悲劇の元大名の息子(こっちも長い)設定でお願いします。