夏の暑い日差しが差し込む執務室。いつもなら、団扇を片手でグチグチと不満を述べつつ作業している火影、うずまきナルトが今日はいつになくご機嫌で目の前の書類の束を片付けていた。
「どうしたんですか?」
時々、不気味な笑みを浮かべている火影に補佐官の一人である春野サクラは眉を寄せた。
もう一人の補佐官は使いに出ていて、あと一、二時間は戻らない。
今がチャンスかも、とサクラはナルトに近づいた。
上機嫌の理由は分かっているのだが……。
近寄るサクラにナルトは嬉しそうに笑う。
「えへへ。サクラちゃん。だって今日はさあ……」
火影の言わんとしていることは分かっている。
今日は彼の大切な人――――もう一人の補佐官であり、ナルトの恋人であるサスケの誕生日なのだ。
「それは分かっているわよ」
サクラは扉をチラリと見て、誰も入ってくる気配がないことを確かめて、ナルトに顔を寄せた。
そして小声で呟く。
「何か考えてるの?」
「もちろん、これ…」
ナルトはソウッと机の下から可愛らしい包み紙を取り出した。ピンクに白い小さな水玉の紙袋にサクラは眉を寄せた。
ナルトに誕生日ならプレゼントくらい用意するものだと言ったのは自分だ。
だが、これはあまりにもファンシーで彼の為に用意したものだとは思えない。
「何買ったのよ」
「ええ、それは秘密だってばよ、サクラちゃんは?」
ナルトの大切な人はサクラにとっても大切な人。彼の話をする時、二人は火影、補佐官という立場から友人に戻る。昔、サクラが想っていた人。今でも彼のことは大切に想っている。但し、仲間として。
大切な親友二人の恋を今は純粋に応援している。
「あ、あたしはケーキよ。あんた焼けないでしょ。冷蔵庫に入れてあるから持って帰ってね。あんたの好きなイチゴにしたわよ。どうせサスケくんはそんなに食べないだろうし」
「わーい。サクラちゃんサンキュー!」
火影になっても変わらない無邪気な笑顔に温かい気持ちになる。
この笑顔に幾度となく救われてきた。
「で、あんたのは何なのよ。ちゃんとサスケくんにあげられるものなんでしょうね?」
どう見てもそのピンクの包み紙はおかしい。
「大丈夫だって!絶対サスケも喜ぶってばよ!」
コレを受け取った時のサスケの顔を想像してニヤリと笑う。
サクラは大丈夫かしらと不安に思いながらも、それ以上追求しなかった。
今日が自分の誕生日であることなど今の今まで綺麗に忘れていた。
よく考えてみれば最後に誕生日を祝って貰ったのは随分前のことだ。ここ数年、自分の中でいろいろとありすぎて、誰かと誕生日を祝う余裕なんてなかった。
だから本当に忘れていたのだ。
「はい、サスケくん」
帰り支度をするサスケにサクラが白い大きな箱を差し出す。
「何だ?」
訝しげに顔を歪めると、サクラはやっぱり、と息を漏らした。
「今日はサスケくんの誕生日でしょ」
「あっ」
今日の日付の書かれた日めくりに視線を向けて、サスケは小さく声を上げた。
そう今日はサスケの誕生日である。
どおりで今日の業務はスムーズだったわけだ。
近頃、日が落ちきる前に帰ることなど殆どない。
それが今日は、定刻の時間をほんの少し過ぎただけでキリの良い所に差し掛かり、終了となった。
全ては自分の為だったことに気づき、サスケは僅かに頬を赤らめた。
「じゃあね。バースデーケーキ、二人で食べてね」
サクラがそう言って、髪を靡かせて部屋から出て行く。同時にナルトが待っていましたとばかり近づいてきた。
「なあ、この後さ。俺んちで飯食おうぜ」
なっ、と笑顔でそう言うナルトにサスケは苦笑いを浮かべる。
「これも消費しないとな」
サクラの気持ちは嬉しいが、甘いものが得意でないサスケにこの量のケーキを全て一人で食べろというのは拷問に等しい。もちろん「二人で」と言い残していったサクラは当然、ナルトを頭数に入れているのだろう。だが、それにしてもこれは多いんじゃないのか?と思う。
「全然、大丈夫だってばよ!」
甘いもの好きのナルトがニッと笑う。
「こんくらい余裕だって」
そう言うナルトにサスケは頬を引きつらせた。
その言葉通り、ナルトはケーキをほぼ一人で食いきった。
いつも思うのだが、この体に何故、こんなにものが詰まるのか聞きたい。
大人の体つきになり、筋肉も適度についたナルトは決して華奢ではない。だが太っているというわけでもないのに、結構な量の食事を食べる。チョージのように食べたものがエネルギーになり、チャクラに変換されているのではないかと思うほどだ。
今も、ナルトのリクエストで注文したデリバリーピザを綺麗に平らげ、ホールのケーキをほぼ一つ、腹に収めた。
その見事な食いっぷりに、見ているだけでお腹いっぱいになってしまう。
「食った、食った」
ポンポンとお腹を摩るナルトにサスケは呆れたように息を零した。
まん丸お腹を摩っている姿は狐というより狸のようだと思う。
思わずナルト狸を想像してしまい、サスケはクスリと笑みを浮かべた。
「何だよ」
サスケの笑みに気づいたナルトが頬を膨らませる。
「あ、そうだ!」
ナルトが急に思い出したように立ち上がった。そして椅子においてあったカバンを取りに行く。
何かを取り出し、ナルトは嬉しそうに渡した。
「これ、プレゼントな!」
そう言ってナルトがサスケに手渡したものはピンクに白の水玉の女が喜びそうな小さな紙袋だった。
「ああ…ありがとう」
プレゼントを用意してくれたのは嬉しい。だが、この中には一体何が?
紙袋の大きさは手の平にのるくらいの小さなもので、しかも妙に軽い。
この感じから言ってハンカチとかそういうものだろうか。
ハンカチだったら嬉しいが、この包みが気になる。男物のハンカチを包むにしては可愛すぎる。プレゼント用にと店に頼んだとしても、普通はこんな袋には入れないだろう。
(たまたま他に丁度良いサイズの袋がなかったとか)
ファンシーなのは外側だけだろうとサスケはゆっくりと袋を開いた。
「何だ?これは?」
袋の中を見て、サスケは自分の目を疑いたくなった。
おそるおそる取り出してみる。
ビニールの透明な袋に入ったそれは、自分の見間違えでなければパンツであった。トランクス型のものだ。
「なっ」
サスケは思わず声を上げた。
百歩譲って誕生日プレゼントにパンツというのはありとしよう。
だが―――――――――。
「何だ、これは」
この柄はないだろう!この柄は!と思わずサスケは叫んでしまった。
袋と同じ、綺麗なピンクのパンツに包み紙と同じように白の水玉。いや、よく見れば水玉ではなく、ハートが描かれている。
「何ってパンツだけど」
いや、そんなことは見れば分かる。
サスケはキョトンとした表情を自分に向けているナルトに、顔を抑えヨロめいた。
さて、どうしたものか?
突込みどころは山ほどある。
まず、誕生日プレゼントに何故パンツなのか?
普通あんまりそんなものを贈ったりしないだろう。ウケを狙ってということはあるかもしれないが、ナルトの様子を見るとそうではないようだ。
それにこの色、柄。
まだトランクスだっただけマシだろう。
これでブリーフだったら即座に投げつけている。
いや、トランクでも「ふざけるな!」と叫んで投げつけたいくらいだ。
ベビーピンクの白のハート柄のトランクスなんて誰が履くんだ?
こんなものが売られている事実がもう信じられない。
いや、作っていることすらありえないだろう。
しかも買ってくる奴がいるのだ。
「ナルト…お前、これ俺にどうしろと?」
手を震わせながらサスケは尋ねた。
「何言ってんだよ!パンツは飾るためのもんじゃねえぞ」
「そんなことは分かっている!」
男が男物のパンツ飾って何が楽しい!いや、そういうマニアもいるかもしれないが、少なくともサスケにはそんな趣味はない。
「何だよ、おかしな奴だな」
おかしいのはお前のセンスだ!とサスケは叫びたかったが、ナルトの小動物のような瞳にグッと言葉を飲み込んだ。
「もしかして?気に入らないのか?」
ナルトの瞳が不安げに揺れる。
落ち着けとサスケは自分に言い聞かせた。別にナルトに悲しい思いをさせたいわけではないのだ。
自分を喜ばせようと、プレゼントを用意してくれた気持ちはとても嬉しい。
だが、このパンツは自分の中にはない!
どう言えば分かってもらえるだろうか?サスケは唇を噛んだ。
「ナルト…気持ちは嬉しいが……」
苦々しい思いでそう呟くサスケにナルトは満面の笑みを浮かべる。
思わずサスケは言葉を飲み込んだ。
だが次の瞬間、思いっきり後悔する。
「えへへ。可愛いだろ。俺も同じの買っちまった」
頬を僅かに染め、照れたようにそう言うナルトにサスケはカッと目を見開いた。
「何だと!」
「え、何だよ。パンツぐらいペアルックでもいいじゃん!」
サスケの権幕にナルトはビクっと体を竦ませた。
お揃いのパンツ。青とか黒の無地や一般的な柄ならそれでも別に良いだろう。
これを?お揃い?
「あ、でも俺のはオレンジだぜ!」
そう嬉しそうに言うナルトにサスケの中で何かがプチっと音をたてて切れた。
「返してこい」
「は?」
「だから返して来いって言ってんだよ!このウスラトンカチ!」
このパンツを履くのは絶対に嫌だ。
「何だよ、俺がせっかく…」
「お前の気持ちは嬉しい。だがこのパンツはねえだろ。どこにこんなピンクのハート柄のパンツを履く馬鹿がいるんだ!」
その言葉にナルトの短い堪忍袋の緒がプチと音を立てて切れる。
こうなったら売り言葉に買い言葉だ。
「此処にいるだろ!可愛いじゃねえか!」
確かにそこにいる。ナルトはオレンジのハート柄のパンツをお揃いで買ったと言っていた。
一体、どういうセンスだ?
服だけじゃなく、パンツまでオレンジなんて人の趣味にどうこう言うつもりはないが、センスが悪すぎる。
しかも火影だぞ!里のトップがオレンジのハート柄……。
「どんなパンツ履いてたって別に良いだろ!誰かに迷惑掛けるわけじゃあるまいし」
確かにそうだが、里のトップが……。
「別にお前がどんなパンツを履いてたって俺に口出す権利はないが、俺にまで求めるな!俺がそんなの履くように見えんのかよ!」
「良いじゃん。履けよ!履けってばよ!」
二人はお互いの瞳を睨み合い、肩でゼイゼイと息をついた。どちらの目にも「引くものか」と書いてある。
「絶対、履かねえ!」
「じゃあ、俺が履かせてやるってばよ!」
ナルトが拳を握り締める。
「絶対に断る」
サスケも応戦すべく構える。
その夜、火影邸の空に明るい二つの光が交差した。
けたたましい音に、周辺住民は何事か!と家を出て、原因を突き止めた後、警務隊に通報した。もちろん、この騒動が警務隊ごときでどうにかなるとは思わなかったが…一応だ。
大方の予想通り、警務隊は二人の戦いを見守ることしかできず……。
緊急呼び出しで呼び出されたサクラが駆けつけるまで、火影と補佐官のパンツを掛けた熱き戦いは続いた。
→ PAN2-1.5
三ヶ月の遅れのサスケ誕生日SSです。
ナルト誕生部SSを書こうと思ったら、どうしてもその前にサスケ誕生日が書きたくなって……今更と思いながら書いちゃいました。しかもパンツネタ(笑)大好きなんですこういうバカバカしい話。
ちなみにサスケ帰還後の捏造です(今更)