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朱い珠
四.
燃えていたのは屋敷の方で道場の方は無事のようだった。
だがあの火の調子では道場も時間の問題だろう。
佐助は上がる黒煙と火の粉に歯をギリリと噛み締めた。
幸い人々は火に夢中で佐助のことを気にしている様子はない。
焦げ臭い匂いの中、佐助は人目を忍んで裏口から道場の中に入った。
煙に顔を歪めながら奥へ進む。
どうしても確かめたいことがあったのだ。
その為なら危険も厭わない。
佐助は袖で口元を押さえ、先を急いだ。
そして道場の扉を開き、息を飲む。
まるで―――――――あの日の夜の再現であるかのような地獄絵図が広がっていた。
「て、てめえ!何でこんなところに!」
月の光を浴びてキラキラと光る金の髪がとても不似合いだった。
それにしてもいつの間に?
鳴門の姿に佐助は心底驚いた。
尾けられていたのに気づかないなんて――――――――。
鳴門が声を漏らすまで佐助はその存在を知らなかった。
(渦巻鳴門)
改めて佐助は彼が触書に載っていたお尋ね者であることを実感する。
罪状は知らないが只者でないことは確かだ。
鳴門は場にそぐわない笑みを浮かべ照れたように頭をポリポリと掻く。
「来ちゃった」
「来ちゃったじゃねえ!」
この状況がどういう状況か分かってんのか?こいつは?
しかし鳴門の方は全く気にした様子もなく飄々としている。
「こりゃひでえな」
血の匂いと死体の山に顔を歪めているが大して動揺している様子もなかった。
「お前…」
一体何者なのか?
自分と同じ『暁』を追う者。
だが理由は恐らく自分とは異なる。
「佐助、それよりさ」
鳴門の青い瞳がある一点を見つめる。
佐助も鳴門の視線を追ってそれを見つめた。
道場の壁に血で文字が大きく描かれている。
粛清――――――――と。
「わざわざ俺たちに見せる為に残していったんだぜ」
鳴門はチッと舌を打ってその文字を見つめた。
「俺たち?」
「そ、俺とお前」
そう鳴門が言った瞬間、道場の横の壁が炎に吹き飛ばされるように壊される。
二人は壊された壁の先に佇むように立っている人の姿に息を飲んだ。
「兄さん……」
佐助に良く似た風貌でだがどこか冷たさを感じさせる表情の青年の姿があった。
今の炎は青年が何らかの術を発動させたのだろう。
暁のメンバーは皆、何かの術を使うという。
彼が暁のメンバーであることはその装いで分かった。
黒い羽織に紅い雲が描かれていた。
「鳴門、それに佐助か」
青年はフッと笑み浮かべる。
佐助は青年の言葉に鳴門に視線を向けた。
目の前の青年は兄の李達だ。
兄は何故、鳴門を知っているのか?
「宝珠を取り戻しに来たのか?」
「ああ。そのヒントを追って来たんだけど大収穫だってばよ」
鳴門は李達の笑みに顔を歪めた。
そして静かに剣を構える。
「巻物は今、佐助が持ってるしな」
「ああ。そうみたいだね。道場主が持っているかと思ったんだが。とんだ無駄足だった」
李達はそう言うと何かの印を結ぶ。
「佐助、伏せろ!」
鳴門がそう叫んだ瞬間、業火が二人を襲った。
本当に一瞬だった。
先ほどのことは夢だったのではないかと思うほどだ。
火を躱した後、再び兄に視線を向けたが姿は消え失せていた。
「くっそお!」
呆気に取られている佐助とは対照的に鳴門はかなり悔しがっていた。
「何だったんだ?一体?」
いや、それよりも……佐助はハッと我に返り鳴門の胸倉を掴んだ。
「お前!」
「わっ」
鳴門が驚いて声を上げる。
「どういうことだ?」
何故、兄が鳴門を知っている?
「それは…」
真剣な佐助の視線に鳴門は天を仰ぎ見る。
「お二人さん、イチャついてんもの良いけどそろそろヤバイそうだよ」
刹那―――――どこからか聞こえてきた声に佐助は眉を寄せた。
一方、鳴門の方は胸を撫で下ろしている。
「彩!お前、先に来てたくせにっ」
「そう言わないの」
鳴門の後ろに黒い影が立つ。
影は笑みを浮かべ鳴門の胸倉を掴む佐助の腕を掴んだ。
「初めまして。佐助くん」
「てめぇっ」
佐助は露骨に嫌な顔をして鳴門が彩と呼んだ青年を睨みつけた。
「とりあえず説明は後だね。そろそろこっちにも火消しが押し寄せてくるみたいだから」
死体のこともあるし、何せ鳴門も佐助もお尋ね者だ。
「とにかく場所を変えようぜ」
鳴門の言葉に佐助は渋々頷いた。
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