◆第四話 〜留め置きて候〜

「命令だ。お前達は留守番!」

『そんなの嫌だ!』

『承服しかねる!』

人形が二体になった次の日、角松の下した命令に対して、
人形達は賑やかな大ブーイングで応えていた。

角松の下艦が決定したのは昨夜の内であった。

菊池が艦に戻らない旨を伝達して来た帝国海軍の動きに、
危機感を覚えた角松は、
やはり自身が乗り込んで話の決着を取り付けるしかないと決心した。

その後、自室に戻ってからひと波乱あったわけだが、
角松にはどうあっても、
二体を連れて行くことなど出来ない事情があった。

「悪いが、康平、頼んだぞ。
 あまり我儘が過ぎるようなら、海へ投げ捨ててくれて構わん。」

「そんな可哀相なこと出来るかよ〜。
 大丈夫、心配すんなって、俺は大歓迎だから♪」

『うう…よーすけ。早く帰って来いよ、待ってるからな。』

『もし貴方が帰って来なかったら、必ず追いかけて行く。』

受動的な言葉と能動的な言葉をそれぞれ投げ掛けながら、
二体の人形は角松の足に縋り付いて、
創り物であるはずの瞳を潤ませて、
そこから宝石のような涙を零していた…と思ったら、
本当に宝石を落っことしていた。

角松はころころと転がりながら煌く結晶を拾って、
陽の光に透かしながらそれを見詰める。

「康平、確かプランツ・ドールって、
 こういうの出してなかったっけ?」

「う〜ん。雪女が出す漫画は見たような気がするけど…。
 どっちにしろ、売ったら金になりそうだよな。」

「よし、後で全部拾っておけ。それじゃ、行って来る。」

「おう、雅行のこと頼んだぜ!」

こうして、ボロボロと宝石の涙を転がし続ける二体を、
両脇に抱えた尾栗に見送られて、帝国海軍の制服に身を包んだ角松
は、
菊池を救い出すべく滝の許へ乗り込んで行った。

一方、二体の美しい人形を預けられた尾栗はというと、
へらりと緩んだ顔で、
次々と繰り出される我儘攻撃に超人的な器用さで応えていた。

『こーへい、この菓子は俺の口に合わん。
 すぐに別のものと取り替えろ。』

「はいはい〜! それじゃ、炊飯長に頼み込んで作って貰った、
 この林檎のコンポートを召し上がれ〜!」

『尾栗氏、紅茶が足りない。新しいものを淹れてくれ。
 茶葉はダージリン・オレンジペコーがいい。』

「はいよ〜! 科員からカツア…おっと譲って貰ったのがあるから、
 すぐにお淹れしま〜す!」

「航海長ばっかズルイっすよ〜! 俺達にもお世話させて下さい!」

目の前で繰り広げられる人形達の盛大な我儘を、
一人で担う上司を決して気遣うものではない恨めしそうな声を上げ、
科員たちは尾栗に詰め寄っていた。

その目には明らかな嫉妬の炎が揺らめいている。

しかしながら今日の尾栗は、いつもと違っていた。

本来その人柄ゆえに常より部下の信頼の厚かったというのに、
その評価に傷を付けかねない勢いで科員たちと対峙する。

「ダメだっ! 俺が艦長に頼まれたんだからな!
 文句があれば艦長に言え!」

『こーへい、座り心地が悪い。クッションを持って来い。』

「は〜い、ただいま!」

『尾栗氏、軍刀に錆が浮いてはならんので、手入れを頼む。』

「はいはい、お任せあれ!」

「うう…ズルイっす。航海長の人でなしぃ〜〜〜!!」

科員たちの嫉妬は今にも頂点に達しそうな状態だったが、
艦長と砲雷長の不在という非常時に問題を起こしてはならないと、
僅かに残った理性で以ってなんとか耐えていた。

しかし、今回のことで艦内での尾栗の評判は、
ちょっとばかり下がってしまったのは事実で、
けれど、当の尾栗はそんなことは意にも留めず、
非常に満足そうな様子であった。

end.
       
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